「うん。特になんにもないよ?」
「じゃあさー・・・ドレス選ぶの、つきあって!」
「あ、いいよ。・・・いよいよだね。」
週末の夜、ロッタは橘花を誘った。
「うん!ギルがね~俺は分かんないから、橘花と一緒に行ってこいって。」
「そっかぁ・・・。男の人は、『なんでもいい』って言うもんね。」
「でもね~うんと可愛いの選んで来いって!」
「ロッタは何着ても似合うもんね~。」
「そうかな?」
ギルとロッタの結婚式に出席して、それからここを離れよう、と橘花は決めた。
その前に家を出てしまえば、二人に迷惑がかかるかもしれない。
だから、二人の結婚式を見届けてから・・・とそう思っていた。
「あれ?橘花・・・出掛けるの?」
「あ、うん。」
左京が曲の打ち込みをしていると、橘花が出掛ける様子だったので、思わず呼び止めた。
「どこ行くの?一緒に行っていい?」
「ううん。ロッタと一緒だから。」
「じゃ、送って行こうか?」
「ううん。近くだし。・・・左京、仕事は?」
「もうちょっとしたら行くけどさー・・・。気をつけて行けよ。」
「うん。」
左京はこうやって、毎日のようにどこかに行こう、一緒に行こうと誘ってくる。
今日のように、本当に用事がある時はいいのだが、なにもない時に誘われると、どうにも返事に窮する。
『左京の気持ちは分かるんだけど・・・。』
「ね、橘花。何着か試着するから、見てね!」
「うん。どれでも似合うと思うけどね。」
「それじゃダメなんだってば~。」
ロッタのドレス姿を見て、こんな重苦しい気分は忘れたい、と思った。
「よっ、左京。ちょっと聞いていいか?」
「ん?なに?」
「(・・・またコイツ、暗い顔、してんなぁ・・・)あのさ、結婚式の時のタキシードって、白と黒、どっちがいいんだ?」
「タキシード?う~ん・・・どっちでもいいんじゃないか?」
「お前、どっちだった?」
「・・・さぁ・・・。忘れたな。20年も前のことだし・・・。」
『あ・・・ヤベ・・・この話題、マズかったか・・・。余計、辛気臭い顔になりやがった・・・。』
「ん~・・・ロッタがさ、今日、ドレス選びに行ってんだけどよ。ほら、男ってのは花嫁の添え物だろ?どっちが花嫁が引き立つのかと思って。」
「ドレス選び?・・・橘花と?」
「ああ!俺、行ったって分からんし、女同士で行ってこい、って言ってさ。」
「あ・・・そうだったのか・・・。」
「なに?」
「いや・・・橘花、出掛けるみたいだったんで、一緒に行こうか?って言ったら断られちゃってさ。そういうことなら、俺がついてっても邪魔なだけだったんだな。」
「なんだ!(・・・そんなことで落ち込んでんのかよ・・・こいつ・・・。)」
「・・・で、どっちがいいと思う?」
「そうだなぁ・・・俺もそういうの、疎くってさぁ・・・。黒がいいかなぁ。」
「あ!やっぱり?ん~じゃ、やっぱり黒にするかな?」
「なんだよ!もう決めてんじゃねぇか!」
「いや、こういうのは他のヤツの意見が大事だからよ。サンキュ、左京。」
↑この二人・・・なぜいつもバスルームで会話を・・・
式に向けて、着々と準備が進んでいる。
そんな二人が、心底羨ましかった。
「さぁ~てっと!・・・あれ?スケさん?」
スケ三郎が、いつの間にかスタイリストになっていた。
結婚したので、定職に就きたかったのだろうか・・・。
「ん~・・・どんなのがいいかなぁ。」
「シンプル?ゴージャス?」
「これとか?ロッタ、スタイルいいから、身体の線が出る方がいいかな?」
「まぁまぁかなー。」
「可愛いけどぉ・・・」
「次、いってみよう!」
「ふふっ。せっかくだから、いっぱい試着しなきゃね!」
「じゃ、これは?」
「うーん・・・。」
「シンプルすぎてあんまり好きくないかもー。」
「やっぱゴージャス系がいいね。」
「これは?」
「あ。可愛い。」
「可愛いけどぉ~・・・もう一声・・・かな?」
「似合ってるよ?」
「じゃ・・・これは・・・?」
「あ・・・。」
「これだぁっ!!」
「あ。ぴったり。」
「ロッタ、すっごくキレイ!!これにしなよー。」
「うん!いいね!」
・・・と、ロッタが着るドレスは決まったのだったが・・・
「・・・ね、橘花も着てみなよー。」
「わ・・・ワタシ!?え・・・イヤよぉ!」
「ドレスなんて似合わないし!」
「ウェディング・ドレスが似合わない女の子なんていないよぉ。」
「え・・・でも・・・。」
「いいから、ほらっ!」
「うー・・・絶対似合わないのに・・・。」
「ん~・・・橘花はヒラヒラ系かなぁ。髪下ろして~。」
「・・・俎板の上の鯉とはこういうことね・・・。」
「こんなの!どう?」
「げっ・・・誰!?」
「似合うって!橘花、髪下ろしたら大人っぽーい!!」
「に・・・似合う・・・?」
「サイコーっ!!」
「・・・っと。ボーっとしてたら時間過ぎてた・・・。ま、俺が行かなきゃ、リハも始まらないけど・・・。」
スタジオに向かって、猛ダッシュする左京だったが、
「・・・ん?」
「・・・なんか、今・・・。」
「非常に気になるものが目に入ったぞ・・・。」
サロンの前を通り過ぎようとした時、ちらっと見えた店内に、何かとても気になる光景が映り、足を止めた。
「・・・なんだ・・・?」
「あれは・・・ロッタちゃん・・・と・・・橘花・・・?」
左京はサロンの窓辺にふらふらと近付いて、ドレス姿の二人を確認した。
ロッタが衣裳を選びに行っていると、さっきギルから聞いたばかりだったが、ロッタのみならず、橘花まで・・・ドレスを身に纏っている。
「あ・・・こっち来る・・・。」
どういう状況なのかは分からない。
だが、二人が窓辺に近付いてくるのを見て、左京は思わず植え込みの陰に身を隠した。
「橘花、それ似合うしー。」
「ワタシが似合ったってしょうがないじゃん!」
「キレイなんだもん。ビックリしちゃった!」
「えー。ロッタの方がキレイだよぉ。」
「ねー橘花も結婚しなよ!」
「え・・・。なに言ってんのよ!」
「1日無料レンタルしてくれるんだってよ?着て帰っちゃえば?」
「まさか!」
「いいじゃん!そのまんま結婚しちゃえば!」←無責任w
『・・・ワタシ・・・結婚なんて・・・。』
おそらく、一生しないだろう、と言いたかった。
・・・左京以外の人とは。
「キレイ・・・だ・・・。」
↑アヤシイぞ・・・左京・・・
「なんてキレイなんだ・・・。」
「・・・へへ。」
「う・・・なんか鼻の奥が熱くなってきた・・・。」
「・・・タキシードはやっぱ・・・黒だな!」
橘花があの姿で、ゆっくりとバージン・ロードを歩み、自分に一歩ずつ近付いてくるのを想像すると、胸が高鳴った。
「・・・っと、遅刻、遅刻っ!」
あの姿を目に焼き付けて、ラブ・ソングを歌おう。そんなことを考えていた。
おまけその1
ちなみに、白でした。
20年前の左京。なんか子供っぽい。
おまけその2
ウェディング・ドレスを着て、自転車で疾走する女・柑崎橘花。
「きゃっほーーーっ!!」
↑このドレス、よく出来てるなぁ・・・。純白じゃないのが惜しいけど・・・
なんか、映画のワンシーンのようで、Good!(≧∇≦)b
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