『・・・橘花、何時ごろ帰ってくるだろう・・・。』
橘花が出掛けてしまったので、仕方なしにスタジオまで出向き、バンドとの打ち合わせを終えて、左京は早めに帰ってきた。
『・・・よっと・・・。初めて作るからなー。うまく出来っかな?』
橘花はまだ帰っていなかった。
もしかすると、お腹をすかせて帰ってくるかもしれない。
なので、この間覚えたばかりの、橘花の好物のフルーツ・パイを作ってみようと思い立ったのだ。
『あとはオーブンさまさまにお任せ・・・っと。』
『・・・いい匂いだな・・・。』
「・・・ん。いい焼き加減だ。」
初めて作ったにしては、なかなかうまく焼きあがった。
「どれ、毒味、毒味~♪」
「どんなもんかな?」
「んー・・・。」
「・・・うん。まぁまぁだな!帰ってきたら、食べてくれるかな?」
↑コイツ・・・生命の果実で作りやがった・・・
『・・・っと電話・・・。』
『ちっ・・・どうせまたあいつからだ・・・。』
・・・と思った通り、マネージャーからの呼び出しの電話だった。
橘花にちゃんと仕事をしろ、と言われたこともあり、左京は仕方なしに事務所に向かった。
「左京さん!」
「米沢。またミーティングかよ。もうたいがいに・・・。」
「それもありますが・・・今日は社長が来られるんです。あと本社から何人か・・・。」
「は?なにそれ。」
「ま、入ってください。悪い話ではないですよ。」
促されるまま事務所に入った左京だったが・・・
「なに?なんで社長がくんの?ところでお前、その服、なに?お前は手島さんか?」
「これは普段着ですが・・・なにか?」
『自分のセンスがおかしいって自覚はないのか・・・。』
「まもなく皆さん、来られますので・・・」
「粗相のないように!」
「(・・・なんでアップなんだよ・・・)むっ・・・なんで俺が粗相すんだよ。」
「そうかもしれませんが・・・とにかく!社長からすごい話しがありますので!!」
「・・・なんの話だよ。俺、昼間も仕事して、疲れてんだけど・・・。」
「左京さんは聞いててくれればいいんですよ!」
「は?聞いてるだけなら、いなくてもいいじゃん。俺、帰る。後で電話で教えろよ。」
「ダメです!」
「・・・あ!来られたようですよ!」
いったい何の話があるのか知らないが、なぜ本社からお偉いさんがやってくるのか・・・左京にはまったく見当もつかなかった。
「こうやって眺めてみると、なかなかキレイな街だな。」
「うん!事業団のみんなが、頑張ってくれてるのかな?」
「橘花。」
「ん?」
「本当にあれでよかったのか?」
「遺産のこと?」
「ああ。いくらでも自由に使えるんだぞ?」
「他に何に使っていいか分からないもん。チャールズは、ツイン・ブルックの街を開いて、一生をかけてこの街を発展させようと努力してきた。そのチャールズの遺産なんだもん。ツイン・ブルックの為に使うべきよ。」
「そう言うと思った!エリックのヤツ、泡食ってたな!ザマミロ!!」
「ふふっ。でもこれできっと、クリスの魂も報われるわ。」
「うん!その通りだ!」
日が落ち、夕闇が迫り、やがて夜の帳に包まれようとしていた。
帰り際に、エリックがこの話の出版許可をくれた。
橘花が自分たちの思い通りにはならないと知り、半ばやけくそ気味だったが、それでも・・・この、クレメンタイン家の悲劇をツイン・ブルックの街中に、いや、全世界に広めることが、確かにチャールズやアーネスト、そしてクリスの供養になる、と考えた末での結論だった。
「・・・橘花、僕はそろそろこの街を離れるよ。」
「え・・・カスケード・ショアーズに帰るの?」
「いや・・・取材の依頼だ。」
「また外国?」
「いや、国内だが、うんと南の方だ。海賊伝説があるんだってよ!そいつの取材だ!」
「面白そう!」
「だろ?」
「それが終わったら、カスケード・ショアーズに帰る。」
「ずっとほったらかしだもんね。ママが寂しがってるよ?きっと。」
「そうだな・・・。」
「・・・橘花・・・元気で。自分の思った通りに生きるんだよ。」
「ふふっ。パパのいつもの台詞っ!」
「お前もしばらくしたら、カスケード・ショアーズに一度帰っておいで。・・・左京でも連れて。」
「・・・え・・・。」
圭介にそう言われ、ドキッとした。
気付かれていた・・・。
それが分かると、橘花は圭介に嘘は言えなかった。
「・・・パパ・・・知ってたの・・・?」
「・・・ああ。気付かないわけないじゃないか。(・・・くそー・・・カマかけただけだったのに当たりか・・・。参ったな・・・)」
しかし、橘花は寂しげに微笑んだ。
「左京を連れてなんて・・・出来るわけないじゃない。」
「あれ?どうしてだい?」
「だって・・・左京は有名人なのよ!カスケード・ショアーズみたいな田舎町に・・・左京が来てくれるわけないじゃない!」
「ふーん・・・。そんなもんかな?」
橘花は、左京との仲を否定はしなかった。
しかし、こんな風に言うということは、もしかするとうまくいっていないのかもしれない。
左京に橘花を取られるのは癪だ。
けれども橘花をないがしろにするのも許せない。
圭介は、複雑な心境だった。
「・・・なぁ、橘花。」
「ん?」
「自分の思い通りに生きて欲しい。自分が正しいと思った道を、まっすぐ歩いて欲しいんだ。」
「うん。分かって・・・。」
「・・・けど・・・正しいと思った道が間違ってることに気付いた時・・・立ち止まって後ろを振り返ってみることも大切だ。」
「え・・・。」
「そしてさ、振り返った時に、誰かが手を握ってくれたら・・・それを離しちゃダメだ。」
この子はなにか、深く思い悩んでいる・・・それはカンでしかなかったが、圭介はそう感じた。
そもそも、あんなに憧れていた左京と恋仲になったのだとしたら、諸手を挙げて、大喜びで自分に報告するような子ではなかったか?
なのに、同じ家に住んでいながら、自分にも、他の誰にも知られないようにしている節がある。
もちろん、ダニエルや宗太の気持ちを考えてのことだ、というのもあるだろうが、それ以外に・・・橘花はなにかを悩んでいる。
「パパ・・・。」
自分は親として、この子に何をしてやれるだろうか。
「・・・橘花、なんで泣くんだい?」
「だって・・・今までそんなこと・・・言わなかった・・・。」
「・・・そうだな。」
「う・・・っう・・・。」
こんな風に泣きじゃくる橘花を見たのは久しぶりだ。
小さな頃は・・・母親がいない寂しさからか、よく泣いては圭介を困らせていた。
けれど・・・大きくなるにつれ、その寂しさに慣れたのか・・・いや、左京のことをテレビで初めて見たときに、まだほんの子供のくせに、頬を高潮させ、キラキラとした瞳で、好きな人が出来た、と自分に報告したあの時から・・・橘花は泣かなくなった。
今、橘花がこうやって泣いているのは、おそらく左京が原因のことだろう。
「橘花・・・泣きたい時はそうやって思いっきり泣けばいいさ。」
「パパ・・・。」
この子は変わった。
自分がクレメンタイン家の血を引くということを知り、クリスの凄絶な末路を聞くにおよび、純粋で無邪気だった橘花ではなくなっている。
けれども、それを人は『成長』と呼ぶのだろう。
今、圭介は目の前で、自分の娘が大人になるところを見ているのだ。
「でもさ、気が済むまで泣いたら・・・笑ってくれよ。」
「う・・・パパ・・・。うん・・・。」
「それが無理なら・・・エリックのバカ面でも思い出すんだ!ほら、笑って!」
「・・・イヤだ。ふふっ。エリックが可哀想よ。」
自分が親としてこの子にしてあげられること・・・
それは、この子がどんな人生を歩んだって、それをきちんと受け止めて、認めてあげることかもしれない。
クレメンタインの子孫?この子が変わった?大人になった?・・・そんなことはどうでもいい。
橘花が橘花である限り、自分の娘には変わりないのだから。
「よしっ!笑ったな。」
「うん。・・・パパ・・・大好き!」
自分はこうやって何も聞かずに包み込み、橘花に笑顔を取り戻させてあげたい。
そう思っていた。
手島さんとは誰ぞ!?
ローカルで恐縮ですが、テレビ西日本の名物お天気オジサンです。
手島さんプロフィール
冬場は大概カーディガン着てます。
黄色とかピンクとかの・・・(^_^;)ゝ
圭介パパとさよならだ!
返信削除淋しくなりますぅぅ~(TT)
左京ももうすぐ移転しちゃいますね。
って言うか左京の自家発電(爆笑)
まああんな夢を見ちゃったらしょうがないですよね(笑)
そして田吾作は相変わらずアップだし(笑)
左京もいよいよ本格的にアセってますね。
早く橘花に求婚したくてうずうずしてるように見えます。
パパが凄くいい事を言ってます!
「・・・けど・・・正しいと思った道が間違ってることに気付いた時・・・立ち止まって後ろを振り返ってみることも大切だ。」
「え・・・。」
「そしてさ、振り返った時に、誰かが手を握ってくれたら・・・それを離しちゃダメだ。」
さすが!パパですよね!
うう…橘花…パパの言う通りだよ?離しちゃダメだよ…。
でも彼女は彼女なりに、左京が有名人な事とか色々と考えてるんでしょうね…。
それでも!橘花が勇気を持って左京の胸へと飛び込むよう、祈ってます!
地震で凄い事になってて、私も呆然としています。
地震がおきた直後はただただ怖くて…。
その日は家へも帰れず、会社に泊まったんですが、夜中もずっと揺れてて、
凄く怖かったです。
私も神経がさすがにまいってしまい、頭は痛いし、体はダルいしで、週末はずっと寝てました。
しかも私の友人の彼のご両親が福島なんですよ。
いまだ安否不明との事で不安そうに話してました。
そんなわけで私も少しの間、ブログの更新を休もうかと思ってます。
落ち着いたらすぐに再開します。
本当に凄いですよね…。これ以上、犠牲者が出ない事を祈ってます。
また遊びに来ますので!
まことんさん、おはようございます!
返信削除ご無事でなにより・・・(ノ_-。)
でも、まだまだ安否不明の方々がたくさんいらっしゃって、日を追うごとに被害の甚大さが明らかになっていくのを、胸が痛む思いで見ています。
ウチは幸い、被害地からは遠く離れているので、直接は大きな被害もなく・・・でも、その分、様々な情報を目にすることが出来るんです。
母と二人、その画面を見ながら、呆然としています。
で、こんな時にブログの更新を進めるのはどうか、と悩んだのですが、もしかすると、楽しみにしてらっしゃる方がいるかもしれない、少しずつ話を進めていって、ここをご覧になった方がちょっとでも安心してくれるかもしれない、と思い、更新は止めないことにしました。
ただ、『不謹慎だ』という声があれば、すぐに更新を停止します。
(ちょっと内容が、元気が出る内容ではなくなってきているし・・・)
圭介、いなくなっちゃったらなんだか寂しいです。
本当に。
でも、データの中では、実はエリックと同居させてます(笑)
なので、街で見かけることはあるかもしれないです。
自家発電のネタは、前にまことんさんからいただいたコメントですよ!
さすがの左京でも、あんな夢見たらやるだろうな、と思って。
田吾作は、アップを入れなきゃ収まりません。
あの顔見てると、つい・・・(ゴメン・・・)
圭介の台詞、最後の、「手を離しちゃダメだ」のところは、最初は入れてなかったんですけど、左京に取られるのは悔しいけど、橘花が悲しむのも見ていられない、という複雑な心情を表すために入れました。
書きながら自分が泣きそうになってました。
理想のパパですよ。圭介は。
橘花のこと、本当に愛していて、その自分と同じくらい、左京が橘花を愛してくれればいい、だったら橘花を託すことが出来る、と左京を試したりしてます。
物語はこれから、ちょっと(かなり?)暗くなってきますが、季節は必ず巡ります。
生活が一日も早く落ち着くことを祈ってます。
被災したすべての方々が、平穏な日常を取り戻せますように・・・。