「橘花。」
「・・・ん?」
「あのさ・・・。」
きちんと話をしよう、と橘花の後を追った左京だったが、しかし、二人きりの部屋で、こうやって橘花の顔を間近に見てしまうと、言葉よりも身体が動いてしまう。
「橘花・・・。」
「さ・・・左京・・・。」
これがいけないのだ、とは分かっている。
だから理性を抑えるために、出来れば共有スペースで話したかったのだ。
だが、きつく抱き締めようとして、橘花の身体が冷たく、冷え切っていることに気付き、左京は手を離してしまった。
「・・・あ・・・ゴメン・・・。えっと・・・イヤ・・・だった?」
「・・・え?」
その言葉と態度で、橘花は左京が、宗太との事を知っているのだ、と分かった。
「あ・・・そっか・・・。知ってるんだよね・・・。」
「・・・ゴメン・・・。」
「・・・うん・・・そうよね。ギルがいたんだもん。左京が知らないはずない・・・よね・・・。」
「橘花・・・本当に・・・ゴメン・・・。」
「謝らないで!!」
「き・・・橘花・・・。」
「左京が悪いんじゃないのに・・・謝らないで・・・。」
「けど・・・。」
「左京・・・。」
「ね・・・ぎゅ、って・・・して・・・?」
「橘花・・・。いいの?」
左京の優しい目に見つめられて、橘花は思わず左京に抱きついていた。
「うん・・・。」
「橘花・・・手が冷たい・・・。」
「左京・・・。」
今だけ・・・今だけは左京の温もりに触れるのを許して欲しい・・・。
心が震えて、氷のように砕け散ってしまいそうだ。
「橘花・・・こっち・・・向いて?」
「うん・・・。」
左京の身体の温もりが心地いい。
「橘花・・・。」
「橘花・・・話したいことが・・・たくさんあるんだ。」
「え・・・。」
「・・・でも、それより・・・。」
「え・・・。」
抱きたい・・・と言おうとした時、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ごめんくださ~い。入っちゃいますよ~。」
「左京さんの部屋は、どこかな?」
マネージャーの米沢田吾作が、クレメンタイン・ハウスを訪れた。
「あの・・・どなたですか・・・?」
「ああ、君、左京さんはご在宅ですか?左京さんの部屋は?」
「お父さんの部屋なら・・・二階ですけど・・・。」
「やぁ!君は左京さんの息子さんか!いい男だねぇ~。僕は左京さんのマネージャーやってる、米沢ってもんです!」
「はぁ・・・。」
「左京さんは?」
「・・・さぁ・・・。」
「左京さ~ん!!」
「さーきょーうさーーーんっ!!」
「・・・ね、左京・・・。誰か、呼んでる・・・。」
「いいよ。そんなの。それより・・・。」
「聞いたことない声・・・お客さんじゃないの・・・?」
「いいんだってば!」
「・・・出てあげて。」
左京に縋ってはみたものの、やはりいけない、と思い返し、橘花は左京の手を離した。
ほんの少し、身体に温かみが戻ってきた。
それだけでいい。
「・・・ったく、誰だ・・・。・・・っていうかこの声は・・・。」
橘花に言われ、仕方なく部屋を出た左京だったが、この声の主は誰なのか、分かっている。
「米沢!!」
「ああ!左京さん!いたんですね!!」
「何しに来た。」
「ご機嫌はいかがかな~っと思いまして!」
「今日はオフだろうが。」
「・・・ってか、その服・・・マフラー・・・何?」
「ああ!これは彼女が編んでくれたんですよ!素敵でしょう?」
『・・・おかしいと思うのは・・・俺だけなのか!?』
そういえば、今日は電話がないな・・・とは思っていた。
まさか、直接こうやって訪ねてくるとは思わなかった。
「用が済んだんだったら、さっさと帰れ!」
「いやいやいや・・・左京さんの生活ぶりを拝見しようと思いましてね~。さっき息子さんがいらっしゃったけど、イケメンですねぇ~。事務所に入って貰いたいですね!」
「あいつはそんなタマじゃねぇよ。」
「そうなんですかぁ?惜しいなぁ。」
「お前・・・うっとおしいからさっさと帰れって!」
「ま、ま、そう仰らずに~。ご同居されてる方にもご挨拶を・・・。」
「いらん世話だ。・・・米沢、ちょっと出よう。」
「え?どちらへ?」
「いいから!着替えてくるから待ってろ!」
こいつに家の中をかき回されたくない・・・と左京は米沢を外に連れ出した。
「行くぞ!」
「はい。」
『むむ・・・結局、左京さんの息子さんにしか会えなかった・・・。女の子も一緒に住んでるって話だから、顔だけでも見ておこうと思ったのに・・・。』
左京がシェア・ハウスで暮らしていることは、一部の人間には知られている。
社長はそれを米沢に、確かめてこい、と命じたのだ。
しかし、宗太以外の住人の顔を見ることは出来なかった。
それでは意味がないのだ。
「あの・・・どちらへ?」
「ま、適当に。」
左京は米沢を連れ、車を走らせた。
「ここいらでいいか・・・。」
どこでもいい。とにかく、米沢を家から遠ざけたかった。
左京は適当な店に、米沢を連れて入った。
「さて・・・と。」
「軽く一杯、飲むか・・・。」
「なんか、軽めのカクテルでも作ってくれ。」
「OK!」
「左京さん。車なのに・・・お酒はダメですよ!」
「酔っ払ったら車は置いて帰るさ。」
「もうっ!危ないから、飲酒運転は絶対ダメですよ!!」
「分かってるって。」
「どうぞ。」
「ん。サンキュ。」
「・・・っていうか、佐土原左京さん・・・ですよね?」
「うん。」
「ボク、ファンなんです。」
「そう。ありがとう。」
「あ~・・・君!こっちにも同じものを・・・。」
「はい。」
「・・・左京さん、よく、来るんですか?ここ。」
「いや?初めて来た。俺、あんまり出歩かねぇもん。」
「・・・なら、いいんですけど・・・。」
「なにが?」
「いえ・・・。」
「場所、移ろうか。」
こういったところのバーテンは、恐らく口が堅いだろうが、それでも左京の顔と名前は知られている。
特に内密の話、というわけではないが、聞かれないほうがいい。
「・・・で、お前。なにしにウチまで来たわけ?」
「いえ。お元気かなぁ~て思って。」
「バカか、お前。仕事行ったら顔合わせてんのに、何がお元気かな~・・・だっ。」
「あの・・・どのような暮らしぶりなのか、拝見したかったものですから・・・。」
「余計なお世話だ。俺のプライベートにまで踏み込んでくるんじゃねぇよっ!」
「・・・そうは言いましても・・・。」
「・・・ふんっ・・・。どうせ社長の差し金だろ。」
「あっ・・・その・・・。」
「分かってるさ。それとなく監視されてるってことくらい・・・。」
「左京さん。社長は心配されてるんですよ。あなたは今、一番大事な時なんです。だから・・・。」
「・・・スキャンダルになるような火種はないか、女の影はないか、って監視してるんだろ?」
「え・・・っと・・・。」
「分かってる、って言っただろ?」
「・・・米沢、お前、彼女いるって言ったよな?」
「え・・・ええ。はい。・・・いや、僕のことはどうでも・・・。」
「お前・・・その彼女のこと、どのくらい好きだ?どうしたいと思う?」
「どのくらい・・・そうですね。何者にも換え難い存在だと思ってます。」
「彼女は、僕の太陽です!今度、お引き合わせしますよ!」
「左京さんのツアーが終わったら、籍を入れるんです。・・・ああ・・・彼女が家で待っていてくれる生活・・・なんて甘美な・・・。」
「何者にも換え難い・・・か。いい言葉だな・・・。」
「さ・・・左京さん・・・。」
「大事に思ってるんだな。彼女のこと。」
「・・・左京さん・・・まさか・・・。」
「・・・ああ。俺には好きな女がいる。」
「え・・・。」
米沢は、自分の耳を疑った。そんなことがないよう、目を光らせていたというのに・・・。
「そうだな・・・どのくらい好きかって言われれば・・・一緒にいられるなら、世界を壊してもいい、って思うくらい・・・好きだな。」
「な・・・。」
「なんですとっ!?」
「左京さん、あなたそんなことが許されると・・・。」
「許し?お前は神か?誰の許しがいるんだよ。人が人を好きになるのに。」
「ちょ・・・ちょっと一杯飲ませてください。」
「ああ。」
まさか、左京がそんなことを言い出すとは予想だにしていなかった米沢は、グラスを手にして、一気に酒を呷った。
「お前・・・そんな一気に飲んで大丈夫か?酒、強いの?」
「の・・・飲まずにはいられませんよっ!!」
「う~いっ・・・。こ・・・これは強いっ・・・。」
「・・・座ろうぜ。」
「は・・・はい・・・。」
『さ・・・左京さんに好きな女が・・・。いったいどこの誰なんだぁっ!?』
左京のマネージメントについてから、左京はそんな素振りはいっさい見せなかった。
前妻と抱き合っているところを見られ、噂にはなったが、左京はそれははっきりと否定した。
だから安心していたというのに・・・。
「さささ佐京さんっ。相手はいったいどこの誰なんですかっ!?」
「そんなことお前に言うか。バーカ。」
「前の奥さんと焼けぼっくいに・・・。」
「それは違うって言っただろ?」
「・・・左京さん・・・。あなた、今が一番大事な時なんですよ!こんな時にスキャンダルなんて起こしたら、人気、がた落ちなんですからっ!!」
「・・・ふっ・・・。人気・・・ね。」
「そうですよ!!」
「・・・そんなもの・・・いらねぇよ。」
「えっ!?」
そう言って左京は笑った。
「いいか、米沢。人気が落ちて困るのは・・・誰だ?」
「え・・・それは左京さんが・・・。」
「俺はちっとも困らねぇよ。」
「えっ?えっ?えっ?」
「俺も彼女も・・・俺がミュージシャンを辞めたって、ちっとも困らないんだ。・・・かえって有難いかもしれないな。余計なしがらみから解放されてさ。彼女と二人で、どっか田舎にでも引っ込んで、慎ましく生活していくなんてのも・・・ありだな。」
「うう・・・っ・・・。」
「う~いっ・・・く・・・。」
「・・・なんならお前、この話、マスコミにリークしてもいいぜ?・・・ま、いっとき追っかけられるだろうが、そのうち誰も、『佐土原左京』なんて名前、思い出しもしなくなるぜ?」
「そ・・・そんな・・・。」
「そんなこと出来るわけ、ないでしょうがっ!!」
「左京さんっ!!あなたの肩には、社員全員の生活がかかってるんですよっ!?」
「そんなもん・・・賠償金なら、俺が一生かかってでも払ってやるさ。」
↑二人ともコワすぎ・・・
「左京さんっ!!!」
「・・・とにかく・・・俺と彼女の仲を引き裂くようなマネしたら、ただじゃおかねぇ。・・・社長にもそう言っとけ。」
「言えませんっ!!!」
左京のあまりにも突然の告白に、米沢はどうしたらいいのか分からず、おろおろするだけだった・・・。
この間の通りすがりの人さん、タイトル、いただきました(^-^;)ゝ
全然、刺客になってないけど。
あと、田吾作の足がテーブルに埋まってるのが気になるけど・・・気にしないで!!
このテーブルって、どうやって置いたらいいのやら・・・配置、失敗したかな?
yuzuさんこんばんは~!
返信削除ほえ?最後の刺客?私そんなナイスな事言ったかな、
言ったのかも、はて?wちょっと・・・田吾作の襟首つかんで・・・
ユッサユッサ!!お前は何をしとんのじゃ、田吾作ぅ~~
自分の幸せは幸せそうに語るのに左京の幸せは語っちゃいけねぇってのかぃ?
左京はロボットか何かですかぃ?左京が恋しちゃいけないってぇ~のかい?
このすっとこどっこい~~!
テーブルの正しい使い方は、片足をテーブルに乗せて
勝手なことを言う田吾作の襟首を掴んで揺するのが
正しい使い方ですよお~~~w
ユッサユッサ・・・!(ぐ、ぐるじぃ~~ 声:田吾作)
この間の通りすがりの人さん、こんばんはー!
返信削除どうしてもアップを入れずにはいられない田吾作・・・。
『刺客』って言葉、いただきました~♪
まぁ、幸せそうな田吾作の顔が愉快というかなんというか・・・。
ふむ。テーブルは片足を乗せて、田吾作の襟首掴んで、ユッサユッサが正しい使い方かぁ。勉強になります!!ww
田吾作は、マネージャーがとっても似合ってます(^-^)
マネージャー業は、アイドルを作り上げるのが仕事なので、左京が恋してるなんて、絶対絶対許せないんですが、戒めるんじゃなくって、なぜかおろおろしちゃってて(笑)
もうちょっとしたら京子さんも出てきます!
京子さんに、ユッサユッサしてもらおうかな?