けれども橘花の心は、まだ冷え切ったままだった。
『そろそろ・・・準備しなきゃ・・・。』
橘花は、左京と宗太の間で、既に諍いがあったことは知らなかったが、自分がいれば、二人の間にもいずれ波風が立つというのは重々承知している。
そして、先日訪ねてきたのは左京のマネージャーで、おそらくライブやツアーのことで詰めの段階に入っているのだろうということも分かる。
『いつまでも・・・ぐずぐずしてちゃ、ダメ。』
左京は、いつも話がある、といっては橘花に声をかけてくるが、それとなくはぐらかしてきた。
けれど、それも限界に近いだろう。
あからさまに左京を避ける態度は取りたくなかったが、それは自分の都合だ、と橘花は自分に言い聞かせていた。
「橘花。」
テレビの画面を見るともなしに、ぼぉっとそんなことを考えていると、いつの間にかダニエルが横に座っていた。
「・・・ん?」
「あのさぁ・・・。」
今、勤めている病院が、クレメンタイン事業団の傘下に入り、病院の名前が変わること、今後の経営陣の新しい体制については、既に発表があった。
そして今日、ダニエルにその病院の院長となるように、内示があったのだ。
「俺・・・トップに立つように、って今日、言われたんだ。」
「うん。」
「お前・・・エリックに頼んでくれたんだろ?」
「うん。」
「だって、ダニエル、遺産貰ってくれるって言ってたじゃない。」
「そう・・・だよな。」
「余計なお世話だったかな・・・。」
「いや・・・ありがとう、橘花。」
「正直、お前がそこまで本気に取ってるとか思わなくってさ。」
「でも・・・おウチ、再興したいんでしょ?」
「うん・・・。」
「俺さ、医者とか向いてないとか思ってたけど、やっぱ向いてたのかなぁ。」
「向いてると思うよ?白衣、似合ってるし。」
「マジで!?カッコいい?」
「・・・カッコいいかどうかは別にして・・・。」
「・・・なぁ、橘花、お前さ・・・。」
「ん?」
「左京のこと・・・好き?」
「・・・好きよ。」
「そっ・・・そうだよな!」
「うん。最初っからそう言ってるじゃない。」
「・・・だよな~・・・。」
「じゃ・・・俺のことは?」
「キライじゃないよ?」
『・・・ビミョー・・・。』
そう。
最初から橘花は、左京のことが好きだったのだ。
確かに最初の頃は、左京のことを、憧れのスターとして見ていたのかもしれない。
けれど、長い時間一緒に生活してきて、それが本物の恋心に変わることなど、最初から分かりきっていたことだったのかもしれない。
元々、勝ち目などなかったのだ。
しかもダニエルは、冗談めかして言っていた遺産の一部を、橘花から本当に受け取ってしまった。
そんな彼女に、今更、好きだとか付き合ってくれとか、左京と別れてくれとか、言えなくなってしまったのだ。
「・・・あっ。そうだ。俺、お前に恩返ししてやるよ!」
「・・・別にいいよ。」
「そう言うなって!」
「んー・・・。」
「なぁに?」
「内緒だぞ?」
「だから・・・なに?」
「これ!病院の研究室で開発してる試薬なんだけどさ~・・・。」
「へぇ。」
「お前にやるよ!」
「どうなるの?なんのクスリ?」
「ま、一種の精神安定剤だな!幸せな気分になるぜ~。」
「ホントに?飲んで大丈夫?」
「責任は俺が持つ!」
「なんか・・・大きいんだけど・・・。」
「見た目だけだ!気にするな!味もちゃ~んとつけてある!イチゴ味だぞ?」
「そこまで言うなら・・・。」
↑飲むなよ・・・
「・・・。」「・・・どうだ?」
「・・・なんか・・・眠くなってきたかも。」
「でも、ちょっと幸せな気分かな?ありがとう!よく眠れそう!」
「うむ・・・。」
「おやすみ~。」
「・・・あれ・・・。また調合、失敗したかな?睡眠薬じゃないのに・・・。」
けれど、橘花が気のせいでも、ちょっと幸せな気分になった、と言ってくれた。
『バイバイ。俺の恋・・・。・・・な~んちゃって。ガラじゃないっか。』
結局、何もしないまま終わった。
けれども、だからこそ、橘花を好きになった思い出は、美しい記憶のまま、ずっと残ってくれるかもしれない。
すっぱり諦める、というわけにはいかないが、橘花のことは左京に任せよう、という気になっていた。
・・・と感傷に浸っていたのだが、美しくない記憶になってしまった男が、ここに一人・・・。
「・・・ダニエルさん。」
「だっ・・・誰っ!?・・・宗太・・・?」
「うん。」
「どうしたんだ!?その格好・・・。」
「うん・・・。ボク、科学研究所に勤め始めたんだ。で、実験に失敗しちゃって・・・。」
「大丈夫か・・・?会社勤めなんかしなくったっていいだろ?」
「うん。元々やりたかったことだから・・・。」
宗太は、左京の財力に頼らずに生きてみよう、と決めた。
絵は趣味でいい。
祖父の以蔵も、警察勤めをしながら、ずっと絵を描き続けていた。
いずれ、ここは出て行くつもりだ。
きちんと独り立ちしなければ、橘花に何を言う資格もないし、左京に太刀打ちできる気もしない、と改めて気付いたのだ。
「・・・ね、ダニエルさん。こないだ、クスリくれるって言ってたよね?」
「まだ眠れないのか?」
「うん・・・。いろいろ考えちゃって・・・。」
「会社勤めしてれば、疲れて、嫌でも眠れるようになるって。」
「気休めでもいいんだよ。なんかない?」
「あー・・・すまん。今、手元にないや。」
「ちぇ。そうなの?」
「(橘花にやっちまったしな・・・)今度持ってくるって。」
「えー・・・。」
『・・・健康体なのに睡眠薬に頼ろうなんて、よくないぜ。宗太。
・・・ま、今度、適当なクスリでも見繕ってやるか・・・。』
「約束だよ。」
「・・・おっと。緊急呼び出しかな?」
「んー・・・。」
以前ほど、眠れない、というわけではない。
ダニエルの言う通り、研究所勤めを始めてから、気疲れからか、ベッドに入れば眠りに落ちていけるようにはなった。
けれどもどうにも胸のざわつきが収まらない。
橘花のこと、左京のこと・・・そんなことを考えると、どうしたらいいのか分からなくなる。
今、この家の中で、宗太がまともに話しが出来るのは、ダニエルだけだった。
「橘花。今ちょっといい?」
「・・・。」
「なぁに?」
「うん。」
「・・・あ。顔の傷、よくなったな。」
「うん。」
「よかった・・・。」
『・・・あ・・・ダメだ・・・。』
毎日、橘花に話をしようと、ストーカーのように彼女の後を追い回している。
そして、こうやって話しが出来る状況になっても、橘花に触れたい、という自分の欲望が先走ってしまい、結局、何も話せないままになってしまう。
それではいけない。
もう時間がない。
「あの・・・俺・・・宗太のこと、ちゃんと謝ってないよな・・・。」
「それは・・・左京が悪いんじゃないって・・・謝らないで、って言ったじゃない。」
「そうだけど・・・(違う・・・こんなことが言いたいんじゃない・・・)」
「橘花・・・俺さ・・・。」
触れるまい・・・と思っていても、無意識のうちに手が伸びる。
そして、彼女の身体に触れてしまうと、その瞳の光の中に吸い込まれ、言葉が出なくなる。
「橘花・・・。」
柔らかな唇に口付けすると、理性の箍が音を立てて崩れていく。
「・・・左京・・・。」
「左京・・・離して。もう・・・こんなこと・・・しないで・・・。」
「・・・え・・・。」
「・・・ワタシ、出掛けるから・・・。」
『・・・今の・・・どういう意味だ・・・?』
そう言って橘花は、自分の腕の中からすり抜けていく。
『もうしないで、って・・・そう言った・・・。』
『・・・俺・・・嫌がられてる・・・?』
橘花は、左京が触れても拒絶はしない。
キスしても抱き締めても、拒否することはなかった。
だが・・・考えてみれば、橘花の後を追い回しているのは自分だけで、橘花から、自分の部屋にやってきたり、話しかけてくることはなかった。
『俺・・・宗太と同じことしてるんじゃないだろうか・・・。』
あからさまに拒絶はされないが、自分が愛情を押し付けていることで、橘花は戸惑いを感じているのかもしれない。
だとしたら、橘花に愛されている、と思っていた自分の考えが、独りよがりな幻想だったということか・・・。
ツイン・ブルックでのラストライブまであと2週間弱。
それが終われば、その足でツアーに出発しなければならない。
なのに・・・ここまできて、橘花の愛情を疑わなければならなくなったことに、左京は大きな打撃を受けていた。
左京!しっかりせんかいっ!!
・・・という声が聞こえてきそうな・・・。
しっかりせんかい!
返信削除っと私が言ってしまいました(笑)
あ、ご挨拶が遅れた。
こんばんわ~♪
左京にしっかりせんかい、と言ったものの、
なんだか可哀そうになってきちゃいました(TT)
だって彼は橘花を凄く愛してる。
ミュージシャンの仕事を捨ててもいいと思うほど。
ここまで人を愛した事のない左京にとって、
橘花は大事な大事な宝物なんですよね。
抱きしめたい、キスしたい、守りたい。
左京の気持ちを考えると切なくなります…。
それにしても…
た~ご~さ~くぅ~!
いっつもいいとこで出てきやがって(笑)
橘花と左京がいいとこなのに出てくんだもんな~
出て来た瞬間、吹き出しました(笑)
あのマフラー(爆笑)
突っ込みを入れたくてうずうずしました(笑)
あ、そんな事は置いといて、
今後の左京がどう出るか見ものですね。
そして橘花はどうするのか…。凄く気になります。
あーあ…最後の左京の顔が悲しいな…(TT)
抱きしめてあげたい…!
まことんさん、こんばんはー!
返信削除やっぱり突っ込みたくなりますよね(^_^;)ゝ
なんか可哀想でしょ?
でもね~・・・この先、もっと可哀想ですよ~。
どんだけ愛してるんだっ!!・・・って思うんですが、この人しかいない、って思ったら、何もかも捨ててもいい、って現実でも多少はあると思うんですよ。
左京の場合、今までまともに人を愛したことなんかなかったし、あらゆる障害があって、余計に激しく、橘花のことを愛してしまってるんです。
田吾作・・・刺客なんで、いいトコで邪魔します。
マフラーは、京子さんが編んでくれたんです♪
どんどん突っ込み入れてください!
・・・っていうか、まことんさんが作ったキャラでしたー(^-^;)
服と靴の色合いが合ってないところもポイント♪
なんか田吾作のイメージカラーって、赤とかピンクとかなんですよ。
左京は黒系で、だからギルは白とか青とか。
橘花は、赤系だったんですが、今後、左京の好みに合わせて変わってきます。
左京を抱き締めてあげてください。
あ、よかったら、ギルに成り代わりませんか?
ギルってば何かといっちゃ、左京のことも、橘花のことも抱き締めてあげてますもんね~。
・・・いや、橘花の中の人になって、いちゃいちゃしてあげてください!
左京、喜びますよぉ(^-^)
今日もこんばんは!yuzuさんw
返信削除さて・・・・。
悪魔:ケッケッケッ、そうだよ左京。お前は独りよがりな恋をしてるだけなんだよ、
きっかがお前を拒絶しないのは、スターだからだよ。お前自身には何の魅力も感じてないんだよ
天使:何を言うの!きっかはただちょっと戸惑ってるだけよ、ちゃんときっかは左京の事を愛してるは!
悪魔:じゃあなんできっかは楽しそうにしてないんだよ、
天使:そ、それは。きっと何か事情が・・・。
悪魔:いいトシした大人が自分ばっかり一方的な行為しかしてないとは、息子の宗太と対してかわり
ないじゃないか、左京、お前はそのままその足でツアーに出たらいいんだよ。
ヾ(≧▽≦)ノ イヒヒヒー♪
って思いましたw(終)
この間の通りすがりの人さん、はい、今日もこんばんは!!
返信削除あの・・・笑っちゃって返信出来ないんですけどーヾ(>▽<)o
あ・・・悪魔!そんなこと言うんじゃないよ!悪魔!!
悪魔:何言ってるんだ?ホントのこと言ってるだけさ。
天使:ダメ!左京!!しっかりして!!
悪魔:左京にお前の声なんか届かないさ。一人でxxxxしてればいいんだよっ!
天使:なんてお下劣な・・・。左京だって男なんだから、xxxしたいのは当たり前でしょ!!
悪魔:やっぱり親子だな。考えることが同じだぜー!
天使:ひどい!!左京は宗太とは違うんだからっ!!
・・・ちなみに天使と悪魔は田吾作の顔をしていたりwwwww