地下室から地上に戻ると、辺りは既に真っ暗で、空には満天の星が輝いていた。
「わぁ・・・。」
「ずいぶん長い時間、地下にいたんだ・・・。」
空気が冴え、一瞬にして夢から覚めたようだった。
月が優しく微笑み、その淡い光で包み込んでくれていた。
「橘花ちゃん・・・本当にありがとう・・・。」
「ううん。お礼なんて・・・。」
「ワタシ一人の力じゃないもん。左京やパパや、みんながいてくれたから、ここまでやれたの。」
「それでも・・・君の力がなければ、チャールズの墓を見つけることなど出来なかった・・・。本当に・・・本当にありがとう・・・。」
エリックは心の底から橘花に感謝していた。
カスケード・ショアーズで、小さな橘花を見つけた時には歓喜したが、それでも、ここまでやってくれるとは想像だにしなかった。
「・・・ね、エリック。お願いがあるんだけど・・・。」
「ん?なんだね?」
「あの地下の・・・一番奥にあった天使の絵・・・あれが欲しいんだけど・・・。」
「何を言ってる!!あそこにあるものはみんな君のものだ!!遺産も、絵もすべて!!」
「そ・・・そうなの?」
「当たり前じゃないか!!橘花ちゃん、君がクレメンタイン家の後継者なんだ!!好きなようにしていいんだよ?」
「好きなように・・・?」
「あの場所をどうするか、遺産をどう使うか、考えて欲しい。あのままにはしておけないからな!」
「考える?・・・ワタシが?」
「そりゃそうさ。我々、エヴァンス家の一族は、クレメンタイン家に仕えていたんだ。君の決定に従うよ。」
「・・・そっか・・・。」
「決まったら知らせてくれたまえ。どう使おうと、本当に君の自由だからな。」
一生かかっても使い切れないほどの遺産・・・そんなものはいらない、と橘花は一貫して思っていた。
けれど・・・エリックに言われて、なんとなくその使い道が思い浮かんでいた。
「お・・・ここに飾ったのか・・・。」
「うん・・・。」
「いい絵だな。」
「本当によく頑張った。頭が下がるよ。」
「そんな・・・。」
エリックに言った通り、自分ひとりの力でなし得たことだとは思っていない。
橘花一人では、地下室のあの場所の扉を開くことも出来なかっただろう。
みんなが・・・左京が優しい目で見守ってくれていたからこそ、到達した結果だった。
「あの・・・橘花・・・。」
「・・・ん?」
「大事な話しが・・・あるんだ・・・。」
「あの・・・さ・・・。」
「・・・愛してるんだ・・・橘花・・・。」
「・・・あ。」
「・・・このまま・・・離したくない・・・。」
「さ・・・左京・・・。」
「だ・・・ダメ・・・。ダメよ。左京・・・。離して。」
「・・・俺、もういいんだ。誰に知られたって・・・。」
「・・・ダメよ・・・。」
「・・・ゴメン・・・今日はもう、眠らせて・・・。」
「・・・そうか。大変な一日だったからな・・・。」
「分かった。今夜はゆっくり休んで疲れを取るんだよ。」
「・・・ありがと・・・。」
「話は・・・また今度・・・。」
「うん・・・。」
左京が何を話そうとしているのか・・・それを聞くのが怖い。
聞いてしまえば、引き返せなくなる。
だから、左京に言わせたくない。
その前に、早くここから離れなければ・・・と思う反面、もう少し、左京と同じ時間を共有したい・・・そんな欲も湧きあがっていた。
「圭介さん。今夜は泊まらせてください。興奮して落ち着かない。」
「お前のベッドなんか、ないよ。」
「圭介さんの部屋は・・・?」
「今、左京が一緒だからダメー。」
「・・・じゃ、ソファーでもなんでもいいです・・・。」
「それだったらいいよ。」
家に帰っても眠れそうにない。
あの地下室で、チャールズの墓の前に立ったときの興奮がまだ覚め遣らないのだ。
「橘花ちゃんは・・・見事に我々の悲願を果たしてくれた・・・。圭介さん、感謝しますよ。」
「だから礼は橘花に言えって。」
「もちろん!言いましたよ!けど、彼女は、自分ひとりの力ではない、と言ってました。」
「うん?」
「皆の協力があったからこそ、成し遂げられた、と。」
「あいつらしいな。」
「後は、今後のことです。あの遺産をどうするか・・・。」
「橘花はたぶん、いらないって言うぞ?」
「そうはいかない!彼女はクレメンタイン家の後継者なんです!クレメンタイン家を再興出来る、唯一の人物なんですよ!!」
「お前・・・それ、橘花が承諾すると思うのか?」
「思う、思わないではなく、やってもらわなければなりません。」
「バーカ。それはお前が勝手にそう思ってるだけだろ?遺言にはそんなことは書かれていなかった。クレメンタイン家の再興、なんてことはな。」
「し・・・しかし・・・。」
「チャールズの望みは、クリスが自分の像を完成させるところを見たかった、ってことだ。それは、クリスの才能を受け継いだ橘花が、ちゃんと果たしたろ?」
「う・・・。」
「アーネストの望みは、クリスの血を受け継ぐ人物を探し出して、チャールズの望みを果たして欲しい、ってことだったはずだ。つまり橘花は、同時に二人の願いを叶えた。」
「けれど・・・それでは・・・。」
「その後のことは、お前らの都合だろ?・・・お前、まだなんか隠してるだろ。」
圭介に問い詰められ、エリックは一瞬口を噤んだ。
しかし、もう隠す必要はない。
「・・・圭介さんには敵わない・・・。そう。我々、アーネストを祖先とする一族・・・つまり、エヴァンス家・クロムウェル家、そしてもう一つ・・・アーネストの子供が養子に入ったバーンズ家。このアーネスト・エヴァンズの血を引く三家で、『クレメンタイン事業団』という非公式の組織を作り、ツイン・ブルックの街の発展を、裏から支えているんです・・・。」
「やっぱりな。そんなこっちゃないかと思ったよ。」
「この前・・・圭介さんが図面の署名に気付いた後、私はクロムウェルを問い詰めた。まさに・・・圭介さんの推測通り、アーネストは、建設に関するいっさいをクロムウェル家に託し、ツイン・ブルックの街の発展の為のみならず、あの場所が人目に触れることのないよう、管理していた。」
「ふむ。」
「もう一つのバーンズ家は、アーネストの財産いっさいを管理し、我々が私的に流用しないよう、目を光らせていた。」
「つまり、アーネストの遺言状は、それぞれ、三通あったってことか。」
「その通りです。我々は何かことがあれば会合を開き、話し合った。橘花ちゃんのことは、20年前に既に報告してあった。」
「そのバーンズ家だが・・・ついでにお前らの行動も監視していたんじゃないか?」
「え・・・。」
「だってそうだろう?年代が下れば、子孫を探すことをしない人間も現れるかもしれない。・・・お前みたいな。」
「わ・・・私は探しましたよっ!!」
「お前、橘花を見つけてから、何かしたか?」
「いえ・・・あの・・・。」
「だろう?クロムウェルの家系だってそうだ。この家の管理などせずに放置して、あの場所が簡単に人目にさらされることだって考えられるわけだ。家の建替工事をする時に、工事をする人間があの地下室に気付かないはずがない。」
「そう・・・ですね・・・。」
「お前らが勝手な行動をしないように、アーネストは遺言でそれぞれの家系の人間を縛り付けていたんだ。・・・やはり、アーネスト・エヴァンスはたいした人物だ。・・・お前はボンクラだがな。」
「ちょ・・・それはひどすぎます・・・。」
「なにがひどすぎるもんか!」
「お前が橘花のことを見つけたのは、お前の父親がカレンまでたどり着いていたからじゃないか!」
「う・・・。」
「そんで橘花を見つけたお前ときたら、橘花が成長するのを待つだけで、あまつさえ嫁に欲しいなんて・・・。お前みたいなバカがバカなマネしないように、監視されてたんだよ!」
「うう・・・胸が痛い・・・。でも確かにその通り・・・。」
「しかし・・・これでやっと私も事業団の中で大きな顔が出来る!!」
「・・・やっぱ信用されてなかったんじゃないか・・・お前・・・。」
話は尽きなかった。
エリックのことをからかいながらも、圭介も同様に興奮が覚めなかったのかもしれない。
二人は夜明けまで、ずっと語り合っていた。
そして、夜が明ける頃・・・
『橘花・・・』
『ありがとう・・・』
チャールズの霊が、橘花の枕元に立ち、そして消えていった。
「・・・チャールズ?・・・今・・・チャールズの声が聞こえたような・・・。」
「チャールズ・・・これでいい?・・・安心して。もう・・・あんな地下の奥深くにいなくていいのよ・・・。」
「・・・さて。ワタシも・・・これからのこと・・・準備しなくちゃ・・・。」
チャールズの墓は無事、見つかった。
これからのことを考えなければ・・・そう思うと橘花の心は、深く沈みこんだ。
いつものおまけ。
隠します。
「・・・ん?今、幽霊の気配が・・・。」
左京・・・何度も言うが、そこはあなたのベッドでは・・・(ノ_-。)
ちなみに左京、圭介の部屋に入れたベッドに、一度も寝てくれません・・・。
おはようございます♪
返信削除なんだか圭介がエリックをからかってるのが面白かった(笑)
終いにはソファーに追いやられてましたね(笑)
気になるのは橘花です。
やはり一人でどこかへ行こうとしてるのかな…。
橘花…いったどこへ行くの……!
左京が愛してるんだ…って言ってくれてるのに、
そのまま左京の胸に飛び込め!
くぅ~~!と思ってます(笑)
これから橘花がどうするのか、凄く気になります!
てか左京…毎回橘花のベットで寝てるのねん♪
可愛い男じゃのぅ(笑)
yuzuさんこんにちわんわん!
返信削除暗いお話大歓迎ですよ!!w
星空にお月様の写真綺麗でした。良いアングルですねえ。
お墓の謎も解けたから、これではれてさっきょん(左京)と結ばれて
晴れてハッピーエンド・・・にはならないのかな?
どうなるんだろう、どうなるんだろう。ワクワク!
まことんさん、こんばんはっ!
返信削除圭介とエリック、これまた迷コンビで愉快です♪
圭介は洞察眼が鋭いので、なんかぼや~っとしてるエリックをからかうのが、面白くってたまらないみたいです(^-^)
左京ったら、ホントにいつの間にか橘花のベッドに潜り込んでるんだもん・・・。
うわぁ~っ!!チャールズの霊が来た来たーーっ!!・・・って張り切ってスクショ撮りまくってたら、左京が気配に気付いてむっくり起きだしちゃって・・・б(^_^;)
・・・ま、しょうがないんでほったらかしですが・・・。
二人でくーくー幸せそうに寝てるの見ると、辛い演技させるのがかわいそうになってくるんですが、それじゃ面白くないので・・・。
でも最後はみんながハッピーになるようにしますよ~。
たまには笑いも織り交ぜながら、続けていきますので!!
この間の通りすがりの人さん、こんばんはー!
返信削除暗い話し、大丈夫ですか?
泣きますよ?・・・ってか、読んでくださってる方が泣いてくれるといいなぁと思ってます。
ツイン・ブルックって、夜になってもなんだかもやのかかったような変な空の日もあるんですが、この時は、満天の星空でした(^-^)
たまにはこういうショットも良いでしょ?
さっきょんって・・・なんか可愛い・・・♡
ここでハッピーエンドじゃつまんないじゃないですか!!
一波乱、二波乱あってそれを乗り越えなきゃ!!(笑)
(・・・という構成を、まことんさんの物語で学びました。)
・・・ふーむ・・・
橘花に、『さっきょん』って呼ばせようかなぁ・・・。(無理。)
ま、何度も書きますが、最後はちゃーんとハッピーエンドにしますので(^-^)
待っててくださいね♪