「見て!!」
「ああ。」
「・・・すごい・・・。」
そこに現れたのは・・・
「・・・チャールズ・・・やっと見つけた・・・。」
墓標と呼ぶにはあまりにも美しい場所だった。
「どうしてこんな地下に、花が咲いてるんだろう・・・。」
「うーん・・・地下水脈でもあるのかな?」
「なるほど・・・。そうかもしれない。」
地下室の真ん中に、水を湛えた池があり、花が咲いている。
壁一面に絵が飾られており、そして・・・その向こうに墓石が安置されていた。
「なんか・・・ちょっと薄気味悪い絵だな・・・。誰が描いたんだろう・・・。」
「誰が描いたかって?」
「愚問だね!クリストファー・クレメンタインに決まってるじゃないか!」
「え?え?そうなの?」
「けどよー。クリスの絵って、売れなかったって話しじゃね?」
「うーん・・・。売らなかったのかもしれないよ?」
「ふーん。」
しかし、宗太は圧倒されていた。
これだけの絵が、なぜ認められず、売れなかったのだろう。
『・・・違う。売れなかったのは・・・価値が分かる人間がいなかったからだ・・・。』
これらが描かれたのは、およそ150年前。
その頃・・・20世紀よりも前の時代に、これだけモダンな絵画が、受け入れられるはずがない。
『生まれた時代が・・・早すぎたんだ・・・。』
『クリストファー・クレメンタインは・・・本物の天才だったんだ・・・。』
あまりにも鮮烈で美しい絵を前に、宗太は言葉を失っていた。
橘花の絵を見て受けた衝撃・・・それ以上の敗北感を宗太は味わわされていた。
クリスの遺伝を受け継いだ橘花。
その橘花に芸術的才能があることなど、自明の理だったのだ。
「おお・・・おお・・・!!」
「こ・・・これは・・・ま・・・まさしく・・・チャールズ・クレメンタインの墓標・・・。」
ようやくここまでたどり着いたエリックが、墓石の前に立った。
「うおおおおおーーっ!チャールズーーっ!!」
「これで長い間の苦労が報われた・・・。嬉しい・・・嬉しいよ・・・私は・・・。」
「長かった・・・本当に長かった・・・。」
感極まって、涙が溢れる。
ずっと・・・本当にずっと捜し求めていたチャールズの墓の前に、今、立つことが出来たのだ。
一族の長い苦しみの旅から、これで本当に解放される・・・。
「これが・・・本当にチャールズのお墓なの・・・?」
「ああ!間違いない!!」
「・・・よかった・・・。」
「橘花ちゃん・・・。やはり君は、私の見込んだ通りの人物だった。君こそが、クレメンタイン家を継ぐ・・・。」
「ん・・・?まだなにか・・・。」
「・・・っておい。無視かよ。」
「だって、その後ろ・・・。」
墓の後ろの覆いを外すと、更に大きな一枚の絵が現れた。
「わあ!キレイ・・・。」
「・・・すごい・・・。」
今にも飛び立たんばかりの妖精を描いた一枚の絵。
覆いを外した、その奥にもまだ何かある。
橘花は墓が安置された裏側に回りこんだ。そこには・・・
「これが・・・」
「・・・遺産?」
「わ・・・。」
そこには、確かに莫大な金額の遺産が眠っていた。
「おおっ!!遺産だ!遺産っ!!」
「うひょ~っ!!なんだ!?この額っ!!」
「すげぇ・・・。」
「橘花!全部開けちゃえよ!橘花ってば!!」
しかし、橘花の視線は壁の一点に集中し、ダニエルの言葉など耳に入っていなかった。
「チャールズ・クレメンタインと・・・その横は・・・。」
「ああ。チャールズの妻、クララの墓だ。さしずめ、クレメンタイン家の墓標といったところだな。」
「・・・ん?この石は・・・?」
「はて・・・。」
チャールズの墓の左には、妻だったクララの墓があり、右側には、粗末な石が置かれている。
「そいつが・・・クリスの墓なんだろう。」
「え?あれが?」
「お前、今言ったじゃないか。クレメンタイン家の墓標だって。」
「いや・・・しかし・・・。なぜクリスだけ、きちんとした墓石が安置されていないんだ・・・?」
「バカ。お前、考えてもみろ。クリスはどうやって亡くなったんだ?自分が死ぬその前に、何をした?」
「・・・あ・・・。」
そうだ。
クリスは犯罪を犯した。
シンディーの命を奪い、そして自らの命をも自分の手で葬った。
それが神に許されるはずがない。
だからあんな形でしか墓標を残せなかったのだろう。
「アーネストは・・・クリスが許される日を待っていたんじゃないのかな?そして、それは同時に、自分が許される日にもなるって考えたんじゃないかな・・・。」
「・・・圭介さん・・・。」
「もういいだろう。時代も変わった。こうやってこの場所が見つかったんだ。クリスもアーネストも許されるさ。」
「ええ・・・ええ・・・。本当に・・・。ありがとう・・・。」
「礼は橘花に言え。」
圭介の言う通りかもしれない、とエリックは思っていた。
アーネストの真意のほどは、今となっては分からない。
だが、クリスの描いた絵を飾り、クレメンタイン家の墓を安置したこの場所で、アーネストはきっと何度も祈ったのだろう。
許される日がくるように、と・・・。
「・・・。」
この部屋の一番奥にひっそりと飾られた一枚の絵に、橘花の視線は釘付けになっていた。
「・・・天使・・・だ・・・。」
「・・・飛びたいのに飛べない天使みたい・・・。」
飾ってある絵、すべてが美しく、素晴らしいものではあったが、これを見た瞬間・・・クリスの最期の嘆きが聞こえてくるような気がした。
クリスはきっと、シンディーを殺したくなどなかったのだろう。
愛して、愛されて、家族となって、幸せな一生を終えたい、と切実に願っていたのだろう。
「橘花。」
「左京・・・。」
「よかったな。」
「うん・・・。」
「左京!」
橘花は左京の腕の中に飛び込んでいた。
「よく頑張ったな!」
「うん・・・ありがとう・・・左京・・・。」
「俺?俺はなにもしてないさ!君がすべての謎を解いたんだよ。」
「ううん・・・。左京がいなかったら、ここまで来れなかった・・・。」
二人がそうやって抱擁するのを
ダニエルはじっと見ていた。
『なに・・・?なんだか・・・。』
『・・・こいつら・・・まるで恋人同士じゃん・・・。』
宗太から聞かされた信じられない話・・・その疑惑が、ダニエルの中で大きく膨らんでいった。
墓探し編はこれにて終了です!
でも、もうちょっと続くので、よろしくお付き合いお願いいたしますm(_ _)m
おおおお~~~~、おおおおお~~~~、
返信削除ついにー、ついにこの時がやってきましたね!
長かった、以蔵の第一話からお付き合いしてきた訳ではないですが、
ついにクレメンタインのお墓の謎にたどり着きましたな!
感激です!!!
なんだか当時クリスがお墓を作った時の回想シーンが思い浮かばれますね。
今から、100年以上前、子供の頃から仲の良かったアーネストとクリス。
アーネストにとっては自分より目上の人でもあり友でもあったクリスが
大人になったある日勘当され、家から追い出され、一時の気の迷いで女に走り、
一度の失敗で人生を棒に降った。
チャールズとその子供クリスがお互いを少しでも思いやる気持ちがあれば、
変わっていたのだろうか?そしてその間に挟まれ生涯気を揉む立場になったアーネスト。
どうすれば皆が幸せになれたんだろうと思ってしまいますね。
おとんが厳しすぎたか?クリスがもっと大人になってお父さんに謝りに行けばよかったか?
きっかちゃんが元気なさそうに見えるのが少し心配ですが、
とりあえず無事一段落ですね、yuzuさんも大変よくがんばりました!
感動です!!
書くのを忘れてました。
返信削除当時アーネストはどんな思いでここにお墓を作ったのでしょうね。
何故もっと皆の目に止まるような場所に堂々とお墓をおかなかったのでしょう。
そして横におかれたクリスの粗末なお墓。彼の遺体もここにうまっているのでしょうか?
それとも気持ちだけでもと思って、アーネストがそこにクリスの石を置いたのでしょうか。
それぞれのせつない気持ちが100年たった今もこうして伝わってくるようです。
そしてこれからこのお家はどうなるでしょうか、
絵を美術館として皆の目に触れるようにするのでしょうか、
それとも今後もひっそりとこの地下室でクララもチャールズも、アーネストもクリスも
眠るのでしょうか。
なんだかせつないです。
この間の通りすがりの人さん、こんにちはー!
返信削除やっと・・・本当にやっとここまでたどり着きました。
エリックじゃないけど、長かった・・・本当に長かったです!
チャールズとクリス。
二人がほんの少しだけ歩み寄れば、こんなに悲しいことにはなりませんでした。
アーネストは生前、二人を和解させたいと努力しましたが、それも叶わず、最悪の結末になってしまった。
最後にクリスに会った時、クリスの様子がおかしいことに気付いていたのに、何も出来なかったことに深い悔恨の念を抱いていたんです。
宗教的な話しになるので割愛しましたが、キリスト教の教義では、自殺も「自分の命を殺す」ということで罪とみなされていて、最近ではそうでもないようですが、これは19世紀を想定した過去の話なので、当時は葬儀も出せなかったんです。(だから『クリストファー』という名前にしたんです)
アーネストは、当時、街で既にかなりの実力者となっていた為、こっそりとクリスの遺体を貰い受けて、ここには骨の一部が埋まっている、という設定です。
で、チャールズとクリスの間を修復したい、と切実に願っていたアーネストは、家族揃って葬ってあげたかった。
でも、前述のように、クリスの墓など、建ててあげることは出来ない・・・。
チャールズとクララの墓は、当時はちゃんと墓地にあったんですが、アーネストがここに移し、クリスを父母の側にいさせてあげたんです。
クリスの描いた絵は、実はアーネストには価値が分からなくて、ダニエルと同じように、『気味が悪い』と思っていました。
精神を病んだ人間が描いた絵だから・・・と思っていて、だから一緒に隠した。
そして、長い時間をかければ、きっとクリスの罪も、アーネスト自身の罪も許される日がくる・・・と、自分の子孫に厳しい掟を強いた。
そして今、やっとすべてが白日の下に晒される日がきたんです。
今後のことは、橘花が考えています。
もちろん、クレメンタイン家の為になるようなことを。
このところちょっと重たげな話しが続いて、息苦しかったでしょ?
ゴメンなさい。
次からはまた、いつもの調子に戻ります。
感想、ありがとうございました!!!
お疲れ様です!
返信削除やっとここにたどり着きましたね!
途中、なんだかゾクっとした部分がところどころにありました。
クリスの墓が石のような墓だったのには切なさがこみあげます。
あれは確かに悲惨な出来事でしたが、クリスの墓だけがあんな風にポツンとあるのを見てなんだか泣けてきます。
もう許されてますよ。神はもう許してくれてるはずです。
だけど、本当にクリスだけが悪かったのでしょうか?
あの時のシンディーはクリスの愛をあまりにも軽く考えすぎてた。
彼は彼なりに家庭をを守ろうとしてましたよ。
その証拠に、彼は一度も家に助けを求めなかった。
野菜くずだけで暮らしてても一度も助けを求めませんでしたよね。
そう考えるとクリスは男として立派だったと思います。
シンディーはもしクリスと別れ、愛人になったとしても、
いつかあんな風な結果になっていたのではないのでしょうか。
なんだかクリスが哀れでなりません。
クリスの絵の腕ははんぱじゃありませんね。
『生まれた時代が・・・早すぎたんだ・・・。』
この言葉はなんだか本当に切なくなりました…。
でもお墓が見つかって本当によかった…。
今日はなんだか言葉が見つかりません…。
ユズさん、お疲れ様です!
まことんさん、こんばんは!
返信削除本当にやっとここまで来ました!
クリスの墓・・・やはり、きちんとした墓石は置けなかったんですよ。
神様に愛されるように、って両親が「クリストファー」と名付けたのに、神に背く行為を犯してしまったのですから・・・。
はい。
クリスは、本当にシンディーを愛していたんです。
最初はシンディーの『不幸な生い立ち』に、同情したというか、憐憫の情の方が大きかったんですが、愛し合って、子供が出来て、守りたい、と思ったんです。
けれども、チャールズには認められず、自分の絵も売れず・・・。
世間知らずのクリスは、他に稼ぐ方法が思いつかなくて、でも、実家に頼ることだけはしなかったんです。
それはクリスの意地です。
自分が愛した人を認めてくれない父親への、そして、自分から離れていこうとするシンディーへの意地だったんです。
自分ひとりの力で、どうにかして守りたかったんですよ。
誰が悪い・・・というわけじゃないんです。
例えばクリスが、もっと時間をかけてチャールズを説得していたら、或いは、シンディーがクリスの本物の愛に気付いていたら、こんな悲しい結末にはならなかったかも・・・。
ま、自分で作った話なんだけど、一つの歯車が噛み合わなくなると、永久にずれていく・・・そんな悲しい物語でしたね。
今、左京と橘花もそんな風にずれてきています。
さて。どうする!?左京!?
クリスの絵、ユーザーメイド品なんですが、自分のイメージ通りのものが見つかったので、かなり興奮しました!
ただ・・・あの大きさは想定外でした・・・。
もっとたくさん、本当に壁を埋め尽くすくらい飾りたかった。
でも、橘花が気に入った天使の絵は、ワタシも非常に気に入って、リアルで欲しいくらい(^_^;)ゝ
あれ、欲しいなぁ。
お墓は無事に見つかりましたので、いよいよ左京と橘花の愛の行方編に入ります!!
ただ・・・恋愛話が苦手なワタシが作るので、かなりひどいです・・・。
心が折れないように祈るばかり・・・(-人-。)
ありがとうございました!!
ついに見つけましたね、チャールズのお墓。
返信削除長い時を経てこの時があると思うと感慨深いです。
先祖代々チャールズの子孫を探すという使命で縛られていたエリックの涙も感動でした。
そして橘花。
最初は自分の状況から逃れようとしてたのに、
ついにここまでやってきましたね。
左京への思いや仲間の思いがあったからこそ、
自分の立場を受け入れることができた橘花。
人に愛されていると思うと満たされる。がんばれる。
クリスも愛が欲しかっただけなのに・・
そう思うとせつなくなります。
ついにお墓を見つけた橘花は、
本当に左京の前からいなくなってしまうのでしょうか?
これからは自分の生い立ち関係なく、
‘今’を見つめなければいけないんですね。
yuzuさんも遺跡お好きなんですね!
エジプト・トルコ・ペルー・・・
行きたい所はたくさんあるのですが
まだ実現ならず><
あっ、京都も好きです。
旅行行きたいな~と思う今日この頃です。
Naonさん、こんばんは!
返信削除とうとう見つけました!
橘花、最初は嫌がっていましたが、やはり決着をつけたかったんです。
遺産には興味はないけれど、アーネストの真意を知りたかったのかもしれません。
エリックからクレメンタイン家の悲しい話を聞かされて、このまま放っておいても、きっと気になって、いろいろなことを考えてしまう・・・だったら、ちゃんと探して、決着をつけて、そして一歩踏み出したかったんです。
ここまで来れたのは、やはり左京の存在が大きいです。
左京は何も干渉しないけれど、大きな愛で橘花を包んでくれています。
そうです。これからは自分自身の未来を考えなければいけないのに、橘花は左京の愛を、素直に受け入れられません。
更に切ない話になるかもしれません(ノ_-。)
ピラミッドがど~しても自分の目で見てみたくて、エジプト、一回だけ行きました!!
もう~大感動!!
ペルーとかもいいですねー!行きたいなぁ。
トルコとかタイとか。
国内では、奈良の明日香の高松塚古墳におととし行きましたが、古代の息吹と言うのでしょうか・・・なんだかタイム・スリップしたような感覚に襲われて、ゾクゾクしました!
うう~・・・そろそろワタシも旅行虫がうずうずしてきました(笑)
京都は何度行ってもいいです~(^-^*)
・・・毎回行くのは平等院メインなんですけど(^_^;)ゝ
何度行っても、あの美しさに圧倒されます!
(*´∇`)o。゜:.・+ オハヨォォ・.:゜。o(´∇`*)
返信削除やっとやっとみつかりましたねっ!
1つの像を置くだけで進んでいくと
開く扉、そして灯りがともる。
こっちだよ~こっちだよ~って
道案内のようでステキでした。
着いたところは素晴らしく穏やかな空間。
絵は誰の目にも触れることなく
静かに長い長い時を重ね輝いていました。
まるで生きているかのように・・
魂が込められた素晴らしい作品。
愛するからこそ妻を殺してしまい
自害していまったクリスの墓。
墓標というには哀れな墓。
でも一面に飾られた絵がしっかりとその存在を
示していました。
天性の才能と親からのありったけの愛情。
切ない末路だったかも知れないけど
何かの歯車がくるっただけで
本当は素晴らしい家族だったんだよ・・
どうかそれを解って欲しい。
そして安らかにここで愛する家族と眠りに尽きたい。
ぽよ~んにはそんな風に聞こえました。
素晴らしいストーリーですねぇ~
切なさと寂しさはありますが
確かな愛情があって心が温かくなりました。
ぽよ~んさん、こんにちは!!
返信削除すべては、橘花がツイン・ブルックにやってきて、クレメンタイン・ハウスで暮らし始めた時から始まっていたんです。
何者かに操られるように彫刻を始め、その才能を開花させ、チャールズの像をその手で生み出し、導かれるようにここまで来ました。
クリスは、本当に才能があったんです。
でも、天才というのは、その分野には才能を発揮するけど、それ以外のことは何も出来なかったりしますよね。
まさにその典型で、生活をすることにも、人を愛することにも不器用で、家族の深い愛情に気付かず、そして、その芸術的才能も、時代のせいで認められなかったため、破滅に向かってしまいました。
うう~ん・・・解ってくれてありがとう!!
クリスは、両親とも、シンディーともうまくやって、生まれた子供も一緒に、皆で仲良く幸せに暮らしたかったんです。
そんな、クリスが思い描いた家族の肖像が現実にならず、その苦しみから解放されたいがために、死を選んでしまった。
クリスは、シンディーを完全に自分のものにしたかった。
けれど、子供を道連れにしなかったのは、クリスの唯一の正しい選択だったんです。
我ながら、よくこんな暗い話を思いつくなぁ、と思うのですよ(^_^;)ゝ
クリスを主人公にした話を書いたら、きっとこれまた長編になるんだろうなぁ・・・。
これからも切なさの嵐が吹き荒れるかもしれませんが、最後は丸く収めるつもりなので安心してね♪
どうもありがとうございました!!