「仕方ないよね。人生、そうそううまくいくもんでもないし。」

そんな時、ノミと槌を手にすると、橘花は不思議と落ち着いた気分になったんです。
「これ仕上げたら、ご飯でも食べに行こうっと。」

「ふんふ~ん♪」

粘土の彫刻なら、あっという間に出来上がるようになりました。

完成!
「でも、粘土だから、色も塗れないのよね~。」

2作目はイスでした。とっとと売りました。
一方、いよいよ家を出なければならない日がやってきて、あの後、かなり探したけれど、自分の今の所持金で借りられるところが見つからなかったダニエル。
「・・・しょうがないな・・・。こないだの『家賃なし!』のとこにするか・・・。」

ぽちぽちぽち。
とぅるるるるるーとぅるるるるー。

「・・・あ。あのー・・・シェアメイトの広告、見たんですけどー・・・。そこ・・・すぐ住めますか?」

「・・・は?料理?料理はちょっと・・・。・・・いえ、はい。・・・あ、ダニエル・デュボワと言います。・・・じゃあ、今から伺いますんで・・・。」

「・・・女の子の声だった・・・。」

不安でいっぱいだったダニエルですが、電話の向こうの女性の声を聞いて、ちょっと安心しました。
「若そうだったけど・・・どんな子なのか、会うのが楽しみになってきた。」

「ダニエル!住むところは決まったのか?」
「うん。今から行くよ。」
「そうか・・・。」

「お別れだな、ダニエル。」
「兄ちゃん、元気でね!」
「ああ。」

「兄ちゃん・・・。」
「・・・早く行け。名残惜しくなる。湿っぽいのは・・・嫌いだ!」

「笑顔で別れよう!」
「分かった。・・・連絡するからね!」

ダニエルは、兄・フランシスに別れを告げ、一人、クレメンタインの家に向かいました。
「えっとー・・・ここ・・・?」

教えてもらった場所には、やけに立派な家が・・・。
「ぐぉあーーっ!!なんてデカイ家ーーっ!?俺んちよりデカイっ!!俺んち、金持ちじゃなかったのかーーーっ!?」

上には上がいるということですよ、ダニエル。
「はぁ・・・。叫んだらちょっと落ち着いた・・・。」

「ちょっと!人んちの前でなに騒いでんのよ。」
「あっ!君!」

「君がここの住人?」
「誰。人んちの敷地内に勝手に入らないで。」

「あ。あの~俺・・・シェアメイトの広告見て・・・さっき電話したダニエル・デュボワっていう者なんだけど・・・。」

「ああ!あなたが!そうだったんだー。ゴメンね。」

「えっとー・・・家賃なしって書いてあったけど・・・こんな立派な家なのに、なんで家賃、いらないの?」
「家賃はいらないけど、光熱費とかは折半だから!」
「それって・・・俺の質問の答えになってる?」

「めんどくさいから、そのうち話す!とにかく、ようこそ!クレメンタイン・シェア・ハウスへ!ワタシは柑崎橘花。」
「あ・・・ああ・・・。よろしく!」

「中入って!」

こんないい家に住めるとは思っていなかったダニエル。

まだ半信半疑でしたが、橘花に導かれて家の中へ。

「あのー・・・君、一人でここに住んでんの?」

「そうよ。明るくていい家でしょ。」
「家族とかは・・・?」
「いないよ。」

「あっちの一番奥の部屋がワタシの部屋。それ以外ならどこでも好きな部屋、選んでいいよ。」

「あの・・・。」
「それから、ワタシ、今から出かけるから。帰りは遅くなるから、寝てていいよ。勝手にご飯作ってくれてもいいからね。でも、ワタシの部屋だけは入らないで。いい?」
「ちょ・・・。」

ダニエルに口を挟ませず、橘花は出かけていきました。
「勝手にご飯作っていいったって・・・。」

「俺、料理なんか出来ないし・・・。」

じゅー・・・

「彼女も料理、出来ないのかな・・・。キッチン、あんまり使ったあとがないや・・・。」

どうせ、誰かが作ってくれるわけでもないのです。
だったら自分が料理を覚えるか、と中途半端な決意をしてみました。
「どこでもいいって言うなら・・・どうせなら彼女の部屋の近くがいいやな。」

ダニエルが選んだ部屋は、玄関の正面。
橘花の部屋とは、バスルームを挟んで隣り同士。
但し、バスルームは橘花の部屋からしか入れない、橘花専用です(^_^;)ゝ
わずかな所持金で、必要最小限の家具を入れ、でも、憧れのギターはしっかり買いました。

「橘花ちゃん・・・ホントに遅いな・・・。まだ帰ってこない・・・。」

「明日はもっと、話したいな。・・・あ。仕事も決めなきゃ。それから・・・ぐー・・・。」

今日一日の疲れで、ダニエルは深い眠りに落ちていきました。
「ただいまぁ・・・っと。」

「ダニエル・・・寝たみたいね。」

「もう2~3人は住めるから、広告はそのまま出しとくか!」

そうしましょう。
まだ誰か来てくれるかもしれないし・・・ねっ。
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