「父さん・・・。ゴメン、俺、間に合わなかった・・・。」

ヒイナさんの訃報を受けて、駆けつけてきた左京。
その前の晩まで泊まっていたのに、ちょっと家に帰った隙の出来事だったんです。
「父さん・・・。大丈夫・・・?」
「ヒイナが・・・ヒイナが・・・俺を置いて逝ってしまうなんて・・・。」

「俺・・・なんでこの前シニガミが来た時、素直について行かなかったんだ・・・。ほんのちょっとの時間と引き換えにこんな思いするくらいなら・・・。」
「父さんってば!そんなこというなよ!」

「そんなこと言ったら母さん、悲しむよ!」
「う・・・。」

左京に諭されましたが、気持ちがなかなか落ち着かないんです。
ヒイナさんが亡くなった場所にくると、ついさっき展開された光景が眼に浮かんで、涙が止まりません。
「ヒイナっ!今朝まであんなに元気だったのにっ!俺、まだ話したいこといっぱいあったんだよ!」

「う・・・ううっ・・・。」

「うわーーんっ!!」

「・・・ひっく・・・。う・・・ダメだ・・・。左京に・・・心配かけちまう・・・。」

まだ現実から眼を逸らしていたいけど、おおいに嘆いて、少し収まってきました。
けど、まだ骨壷を埋葬する気にはなれなくて・・・。
「ヒイナ・・・ゴメン。もうちょっと気持ちの整理がついたら、必ず墓建てるから・・・。」

でも・・・
そこに置きっぱなしはあんまりだぞ、以蔵・・・。

『父さんと母さん・・・すごく仲良かったもんな・・・。父さんの嘆く気持ちは・・・分かるんだけどな・・・。』

けれど、以蔵には元気になって貰わなければ・・・と思う左京。
「ヒイナ・・・この場所・・・好きだった・・・。」

「・・・ああ・・・思い出したら悲しくなる・・・。」

小さな家なので、どこにいてもヒイナさんの思い出でいっぱいです。
「もっと・・・この場所で二人で灯台を眺めたかった・・・けど・・・。」

日が落ちて、以蔵の気持ちも次第に落ち着いてきて、左京がいてくれることが心強く感じられました。
「ね、父さん。」
「うん?」
「俺、しばらくここに泊り込むから。」
「・・・そうか。・・・ん?左京・・・その食事・・・?」
「ん?なんか冷蔵庫にあったから食べちゃったけど・・・ダメだった?」
「・・・いや・・・。」

左京が食べているのは、『神々の食事』
ヒイナさんが作っておいたんです。
もちろん、自分たちが食べるつもりではなく、これから先、未来が待っている佐京たちの為です。
「俺さ、儀助と宗太にちょっと言ってくるから。すぐ戻ってくるよ。」
「うん。大丈夫だ。だいぶ落ち着いてきたから。」

「一人じゃ、寂しいもんな。」

息子たちのこともちょっと心配だったので、いったん家に帰って、話しをしたらすぐに戻ることにしました。
「お。宗太、いるな。」

「あ!お父さん!おじいちゃん・・・大丈夫だった?」
「宗太、それなんだがな・・・。」

「ちょっと俺、しばらく父さんのところに泊まりこむことにするよ。」
「ボクも行こうか?」

「いや・・・俺、一人でいいよ。・・・儀助は?」
「兄ちゃん、出かけてるよ。」
「そうか・・・。じゃ、お前から言っといてくれ。」

「うん。分かった。」
「なんかあったら、すぐ連絡するから。」

と、そこへちょうど儀助も帰ってきました。
「兄ちゃん!お父さんね、しばらくおじいちゃんのとこ泊まるって。」
「うん?・・・眠いから話しは明日にしてくれ~。」
「・・・ったくしょうがないな。・・・宗太、儀助にちゃんと話しといてくれな。」

左京も体力が限界で、ちょっと休みたかったんですが、すぐ隣りだし、以蔵の側にいたかったので、戻って休むことにしました。
長かった一日でしたが、あと1時間ほどで日付が変わる。そんな時間でした。
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