翌日、左京がメールチェックをしていると、橘花が外出しようとしていた。
「あれ?橘花ちゃん、どっか行くの?」
「うん。届け物。絵を頼まれてたの。」
宗太に頼まれた話をするには、外の方がいい、と思っていたので、今がチャンスかもしれない、と左京は橘花を呼び止めた。
「どこ?送って行くよ。」
「え・・・いいよ。悪いし。」
「いいって。俺も出掛けたいし。用事が済むまで待ってるから、ご飯でも食べよう。」
「余計悪いよ。待たせるなんて・・・。」
「いいから。どこ?」
「・・・ボックス・カー食堂なんだけど・・・。」
「じゃ、ちょうどいいじゃんか。終わったらそこでゆっくり食事しよう。」
「待ってて。着替えてくるから。」
「・・・うん。」
左京を自分の用事につきあわせるのは悪い、という気持ちよりも、左京と二人でこうやって話したり、出掛けたりすることにプレッシャーを感じる。
しかも、今日は有無を言わさない雰囲気に押されていた。
「お待たせ。車出すからね。」
「うん・・・。」
『普段から左京って、こんな感じだったっけ・・・。』
少々強引に感じるのは、自分が気後れしているせいだろうか。
車に乗り込むと、左京は押し黙ったままだった。
『・・・空気、重い・・・。なんか話して欲しいな・・・。』
そう遠い場所でもないのに、なんだか時間が長く感じられた。
左京は、というと、橘花にどういう風に話したものか、と考えを巡らせていただけだったのだが。
「俺、その辺でふらふらして待ってるからさ。」
「・・・やっぱ悪いよ。」
「先、帰っていいよ?ワタシなら一人で大丈夫だし。」
「そう言うなって。話したいことあるしさ。」
「話したいこと?」
「うん。」
「でも・・・時間かかったらホントに帰っていいよ?」
「そんなに俺といるのが嫌?」
「え・・・そんなんじゃ・・・。」
「ははっ。冗談!ホントに待ってるからね!」
そう言って左京は、駆け出して行った。
「・・・ドキっとするんだから・・・もうっ。」
自分の気遣いなど、左京には通用しない。
「もうっ。さっさと用事、済ませようっと。」
左京がいったい何を話したいのか知らないが、早く済ませて解放されたい、と思っていた。
「さーて。本でも読もうかな。それともギターの練習でもするか。」
まだ、どんな風に橘花に話をするか決めていなかったが、成り行きに任せるか、と左京は思っていた。
「左京!」
「ん?」
だが、自分の名前を呼ぶ声に立ち止まった。
「左京。」
「マルゴ。・・・どうしたんだ?」
「偶然、通りかかったらあなたが見えたから・・・。」
「仕事は?終わったのかい?」
「ええ・・・。」
「今、なんの仕事してるの?」
「たいした仕事じゃないわ。・・・半分休暇みたいなものよ。」
「そうか。」
「ね。時間ある?食事でもしない?」
「俺、人待ってんだよ。」
「さっきのあの子?」
「(こいつ・・・いつから見てたんだ?)・・・そうだよ。それに、俺、断ったじゃないか。」
「偶然会ったんだもの。食事くらい付き合って?あなた、宗太にも会わせてくれないし・・・。」
偶然?旅行者が通りかかった?
食事をしようとしていたのかもしれないが、街の中心地には食事をする場所くらいたくさんある。
わざわざこの場所にやってくる必要があるだろうか?
「待った。君、本当に宗太に会いたいのか?」
「・・・会いたいわよ。だって・・・自分の息子ですもの。」
「(・・・なんだ?今の間は・・・。)マルゴ、君さ、何か・・・。」
何かあったのか?と問い質そうとした時、レストランの入り口に橘花の姿が見えた。
「はぁ~。思ったより早く終わった。・・・左京、ホントに待ってんのかな?」
「橘花ちゃん!ここだよ!」
「あ、左京。・・・え?」
左京の目の前には、数日前に一緒にいるところを見た女性が立っていた。
橘花は一瞬足が止まった。
「左京。・・・誰なの?」
「俺が住んでるとこの大家さんっていうかさ。」
「・・・ずいぶん若いけど・・・?」
「年は関係ないだろ。」
「左京、待たせちゃってゴメンなさい。」
「なんだよ。そんなに待ってないよ。」
「・・・えっと・・・。」
「あ、彼女ね、俺の昔の奥さんなんだ。出張で来てるんだって。」
「(前の奥さん・・・か)・・・コンニチハ。」
「ワタシ、一人で帰るね。用事も済んだし・・・。」
「なんだよ。食事しようって言ったじゃないか。」
「でも・・・。」
「せっかくだから三人でどうかしら?それともお邪魔かしら?」
「いえ・・・。帰ります。」
「橘花ちゃん!」
「橘花ちゃん、ダメだよ。食事して帰る約束だったろ?」
「(約束はしてないと思うんだけど・・・)ゴメンなさい・・・。」
「この子が遠慮してくれるって言ってるんだから・・・左京、私ともう少し付き合って?」
橘花がもっと大人で、恋愛経験も豊富だったら、左京がこの場から逃げたがっているのが分かっただろう。
しかし、橘花は大人ではない。
「二人でゆっくりしてくださいね。じゃ!」
今は自分がこの場から逃げ出すことしか頭になかった。
『近くで見ると、ホントにキレイな人・・・。左京と・・・よりが戻ったのかな・・・。』
『・・・ワタシ、なんでこんなに落ち込んでんだろ?左京が誰と付き合ったって・・・ワタシには関係ないもんっ。・・・そうよ。関係ないのよ・・・。』
このぐるぐるした感情はなんなのか、どこにぶつけたらいいのか、橘花には分からなかった。
長いですね。
いったん切ります。
0 件のコメント:
コメントを投稿