Overnight Sensation

ライブ当日の朝、左京は早めに起きて、出掛ける準備をしていた。
入り待ちのファンなどに見つかると面倒なので、早めに会場入りしたい。
それに、直前のリハーサルで、バンドと合わせておかなければいけなかった。
「ああ・・・なんか・・・緊張する・・・。」
「なんで？今更？」

「今更とか関係ないのっ！何度やってもステージに立つ前は緊張すんだよっ！！」
「じゃ、橘花にちゅーしてもらえば？」
「・・・それは後でしてもらう・・・。」

「・・・ったくよぉ・・・。佐土原左京ったって、ただの男だよなぁ・・・。」
「当たり前じゃんか。」
「ファンが悲しむぜぇ？」
「知るか。そんなん。」

「イライラすんなって！ま、そこがお前のいいとこだよな。」
「どこが？」
「人間臭いとこだよ。」

「俺ぁ、人間だっての！」
「そうね。」
「それはそうと・・・京子、ヤツは？」←ギルです。
「田吾作くん？さぁ・・・。電話も寄こさないわ。天使と悪魔とでも戦ってるんじゃない？」

「ふぅん。・・・ま、ヤツが何考えてるか知らんが、なんかやらかそうとしたら、俺が止めるさ。」
「そうね・・・。たぶん大丈夫だと思うけど・・・いざとなったらお願いね。」

田吾作からは、いっさい連絡はなかった。
彼は彼なりに、必死に考えているのだろう、と京子は思っていた。
「あっ！ギル、ギル！俺、今日仕事だから、終わったらすぐ、宗太のヤツと一緒に行くよ！先、行ってて。」
「OK。ロッタ、まだ寝てんのかな・・・。」

今日のライブ、左京は来て欲しい、とみんなに声をかけていた。
この街を離れる最後のライブでもあるし、それに・・・。
「・・・しかし、京子さん・・・橘花に聞きましたよ。ずいぶん思い切ったことした、って・・・。」
「そうね・・・。でも・・・橘花ちゃんにも言ったけど、勝算は・・・あるわ。」
「俺、先行って、あいつの顔、拝んできます。」
「ふふ。どんな顔してるかしらね。」


「橘花。支度、出来た？」

「うん。」
「早いけど、そろそろ出よう。リハもあるし。」
「うん。」

「ところでお前また・・・地味な服だなぁ。」
「ワタシのライブじゃないもん。」

「それに、今日は目立たない方がいいでしょ？」
「それもそっか・・・。」

本当なら堂々と連れて行って、自分の傍にいてもらいたい。
けれど、橘花は、スタッフの振りをして、ついていく、と言ったのだ。
「ステージの袖からライブ、見るなんて初めて！楽しみ～。」
「今までだって、言えばよかったのに・・・。」
「いいの！今日は特別だもん！」

「うぉっ！」

「頑張れ！佐土原左京！」

「うんっ！気合、入った。」

「でも・・・。」
「ん？」

「・・・もっと入れて・・・。」
「うん。」

「・・・いいよ。」

「橘花・・・。」
「左京・・・。」

橘花に触れるだけで、なんでも出来そうな気がする。
自信が、身体の奥底から漲ってくるようだった。

「はいはい。そこのバカップル。とっとと出掛けろ！ワニにエサやるんだからどけ！！」

「・・・分かったよ。さ、行こうか。橘花。続きは向こうで・・・。」
「・・・ったく・・・これが佐土原左京の実体かよ・・・。ファンが嘆くっての・・・。」

ギルのぼやきを聞きながら、二人はライブ会場へ向かった。

「んん・・・っ。ちょっと、ライト、足りないな。」

「よしっ！ストップ！リハ、終了！！」

バンドメンバーと新曲を合わせたのは、今日が始めてだった。
だが、皆、きちんと練習していたし、左京の歌い方に合わせて、アレンジもしてあった。
本番は心配ない。
左京はメンバーを、控え室に集めた。

「いい曲じゃないか！新曲！」
「さすがです。左京さんはやっぱり。」

「しかし・・・なんでリリース、延期したんだ？プレスが間に合わなかったのか？」
「俺、知らんですよ～。」

「コムロさん、なんか知っとりますか？」
「さぁ・・・理由はボクも知らないんだ。左京が止めたんだけど・・・。」
「左京さんが？・・・やっぱ合わせて録り直したいんかなぁ・・・。」

左京は、本来なら今日、発表予定だった新曲のリリースを差し止めていた。
その理由を、バンドのメンバーも知らなかった。
なにせ、この1週間、左京はミーティングにも、リハーサルにも顔を出さなかったのだ。
「みんな、待たせたな。」
「おっ。やっと主役の登場だ。」

メンバーが集まっている控え室に、遅れて左京がやってきた。
「みんな、ありがとう。俺がいなくても、しっかり練習しててくれたんだな。」
「合わせなくても本番できっちり合わせてくるお前の方がスゴイよ・・・。」
「すまなかったな。」

「・・・ライブの前に・・・お前らに話さなきゃいけないことがある。」
「米沢さんは？オイラ、呼んで来ましょうか？」
「いや・・・あいつには聞かせたくない。お前らだけに聞いて欲しいんだ。」
「なんだ？座れよ。」
「ああ。」

左京は腰をおろし、そして一つ深呼吸をした。
「今日のライブ・・・最後のアンコール、一番最後であの新曲をやる。」
「ああ。そういう構成だろ？」
「けど・・・もしかすると、歌わないかもしれない。」
「えっ！？」

「ど・・・どういうことだ！？左京！？」

左京のその言葉に、メンバーは色めきたった。
せっかく完成した新曲を歌わないかもしれないなんて・・・。
「ラストの曲の前に・・・MCを入れる。」
「MC～！？何喋るつもりなんだ？」

「俺・・・さ、好きな女がいるんだ・・・。」
「おっ！そりゃ初耳だなぁ。」
「どんな女性なんすか？左京さんのことだから、美人だろなぁ！」

「あの曲はさ、彼女への想いを詰め込んだ曲なんだ・・・。」
「しかし・・・それを歌わないかも・・・ってのは・・・なんだ？」
「ああ・・・。今から話す俺の計画・・・お前ら、納得出来なきゃ、抜けてくれて構わない。俺のわがままに付き合わせるわけには・・・いかないからな・・・。」

そして左京は、今夜のライブでやろうとしている計画を、メンバーに打ち明け始めた。

「いい天気・・・空気が澄んでて・・・気持ちいいな。」

橘花は、物陰からリハーサルを見たあと、ライブハウスの屋上に上がった。
「あれっ？ここ・・・。」

ツイン・ブルックの街を一望できるこの場所で、遥か彼方に小さく見えるもの・・・それを見つけた時、背後から声をかけられた。
「あの・・・。」

「柑崎橘花さん・・・でしたよね・・・。」
「マネージャーさん・・・。」

「米沢です。・・・自己紹介もしてませんでしたね・・・。改めて・・・左京さんのマネージャーを勤めさせていただいてます、米沢田吾作、といいます。」
「あ・・・はい・・・。」

京子は、勝算はある、と言っていた。
だが・・・いったい何を言われるのだろう、と橘花は身構えた。
「あの・・・。」
「あなたは・・・何があっても、いくら積まれても、左京さんと別れる気はないと、この前、仰いましたよね・・・？」
「ええ・・・。」

「それは・・・今でも変わらない・・・？」
「今でも？」

田吾作は、自分に何を言おうとしているのだろう。
けれど何を言われても、橘花は正直に、自分の胸のうちを明かそう、と思っていた。
「違います！この先、一生、変わらないわ！！」
「一生・・・。」

「当たり前じゃない！もちろん・・・この先どうなるかなんて分からない。もしかすると・・・左京に別れを告げられる日が来るかもしれない。でも・・・一生添い遂げる覚悟がなきゃ、左京の想いに応えたりなんかしないわ。」
「そ・・・そうですか・・・。」

また、田吾作は、左京と別れてくれ、と言うだろうか。
けれども、それでも橘花は、左京のことを手放したりしない、と言うつもりだった。
「柑崎さん・・・僕は・・・。」
「はい？」

「左京さんのマネージャーです。」
「ええ・・・。」
「マネージャーの立場として、左京さんとあなたの仲を、認めるわけにはいかない。」
「・・・。」

「・・・別れさせるって・・・こと？」
「・・・しかし・・・京子さんのフィアンセでもある。」

「例えば・・・僕が左京さんと同じ立場だったとしたら・・・愛する人と、無理に引き離されそうになったとしたら・・・僕はそいつを許せない。」
「・・・そうね・・・。」

「きっと・・・あなたたちの仲を無理に引き裂けば、左京さんは、僕を許さないでしょう・・・。もちろん・・・あなたも・・・。」
「そうね・・・。許さないわ。ずっと・・・左京だけを見て来たのよ。
・・・そう。1ヶ月前のワタシなら・・・そう言われれば、左京のために身を引いたかもしれない。でも・・・ワタシが離れようとすると、左京はボロボロになるって・・・友人に言われたの。お前は、左京がどれだけお前のことを愛してるか分かってない、って。
左京・・・しばらく仕事、行かなかったでしょ？」
「ええ・・・。」

「ワタシ・・・左京を捨てようとしてたの。」
「なんですとっ！？」
「米沢さん・・・愛する人に捨てられる気持ち・・・分かる？」
「ええ！ええ！分かりますともっ！！」

「ワタシ・・・分からなかったの。せっかく左京が、『好き』って言ってくれて、抱いてくれたのに・・・捨てられて、どんな思いをするのか・・・そんなことに気付かなかったの。」
「柑崎さん・・・。」

「でもね、左京が教えてくれたの。それがどんなに辛くて悲しいことなのか。ワタシの間違いを正して、手を握って、間違った道から連れ戻してくれたの。だから・・・左京が、『愛してる』って言ってくれる限りは、離れないって決めたの！あなたに何を言われたって、左京のファンに殴られたって、パパに勘当されたって離れないわ！」

「柑崎さん・・・。」

この子は・・・左京よりずいぶんと若いが、強い意志を持っている、と田吾作は感じていた。
そして・・・左京と同じように、強い気持ちで、全身全霊で左京を愛している、ということが分かった。
自分は・・・こんな二人を引き離そうとしていたのか・・・。
「柑崎さん・・・。」
「はい。」
「あなた・・・。」

「あなた、いい人だぁぁぁぁぁーーっ！！！」

「えっ！？」

「な・・・なんですか？急に・・・。」
「あなたは・・・左京さんのファンだったんですか？」
「だった、じゃないわ。今でもファンよ！」

「僕は・・・サンセット・バレーで、左京さんのライブを見て、あの人に惚れ込みました。そう・・・あれは・・・もう5年も前のことでしょうか・・・。」
「なーんだ。たったの5年？」
「え・・・？では・・・あなたは・・・？」

「15年よ！そして・・・これからも一生、左京のファンであり続けるわ！ワタシの人生は、左京のものなの！もう、ずっと昔から。」
「そ・・・それで左京さんを本当に射止めてしまったとは・・・。」

「最高の人生だわ！憧れてやまなかった左京に愛してもらえて！」

「だから左京はワタシのものよ。他の誰にも、あなたにも渡さない。世界中の人に憎まれて、嫌われてもいい。左京だけが愛してくれれば、それでいいの。」

なんという強い気持ち・・・。
自分は、京子をこれほどまでに愛せているだろうか？
・・・いや、これほどの思いで京子を愛していたなら、あの教会で、京子に「結婚しない」などとは言われなかっただろう。
京子の気持ち、橘花の気持ち、左京の気持ち・・・今まで目を閉じて、耳を塞いでいた田吾作には分からなかったことが、やっと分かった気がした。
耳元で、天使が囁いた。
『田吾作よ・・・それでいいのだ・・・』と。

「柑崎さん・・・負けました。そんな顔をされては・・・認めないわけにはいきません。」
「米沢さん・・・。」

「僕は・・・あなたにも左京さんにも、そして、京子さんにも謝らなければいけません。」
「そうね・・・京子さん、どんな思いで米沢さんに別れを切り出したのか・・・ワタシたちのためとはいえ、すごく辛かったと思うの。だから・・・米沢さん、京子さんのこと・・・抱き締めてあげて。」
「はい。」

「しかし・・・左京さんと添い遂げるということは・・・平坦な道ではありませんよ？」
「そんなこと分かってるわ！言ったでしょ？誰に憎まれても、ワタシはいいの。でも・・・それは左京がなんとかしてくれるわ。」
「左京さんが・・・？」

今夜のライブで左京がやろうとしていること・・・それを考えると、橘花はワクワクした。
もう不安などない。
すべて、左京に委ねるだけだった。



ここで、左京のバンドメンバー紹介☆⌒ヾ(^-^*)

左京は、ソロで活動してて、このバンドメンバーは、ライブとかレコーディングの時に集まるメンバーという設定です。

キーボード：コムロテツヤ
この『TK GRAVITY』というバンドのリーダー（笑）
似せて作ったら、ホントに似てしまったので、名前もそのまんま・・・(^_^;)ゝ
最近は、ほとんど左京の専属バックバンドになっているが、本人はアイドルなどに楽曲を提供したりしてて、作詞・作曲家としても有名・・・ってホントにそのまんまやん！

ベース：ジョン・別所
本名　別所孝明。
左京がデビューした頃からずっと、左京のバックでベースを弾いてるので、左京にとって、一番気心が知れた仲。
ただし、ゲイなので、一度は左京を抱きたいと思ってる。
けど、左京が全力で拒否するので、いまだ悲願は果たせず。（当たり前です。）

右　ギター：山田リュウ
本名　山田正男。
インディーズでギターを弾いているところを、コムロさんにスカウトされた。
若いけど、実力はかなりのもの。性格は、お調子者だけど、九州男児なので、意外と硬派な面もある。
女の子の顔と名前を、一発で覚えられるという特技がある。

左　ドラム：佐々木スケ三郎
バイトをしながら音楽活動をしていたが、結婚して、音楽一本でやっていこう、とコムロさんに頼み込んで、メンバー入り。
左京は昔から憧れの存在。
歌も作るが、左京に歌ってもらえない。

こんな4人です(^-^)
適当に作ったんですが、左京とセッションさせてたりしたら、愛着が湧いてきました！
なんかいいなぁ。このメンバー。