授業が終わると、左京はいつものように寄り道などせず、真っ直ぐに家に帰った。
三人組に捕まると厄介だ。
週末までに金を用意しろ、と言っていたが、週末まで手を出してこないとは限らない。
それに、家に帰っても、どうせ誰もいないのだから、寄り道しようがするまいが同じことだ。
「あー・・・腹減ったな・・・。」
昼休み時間中も、奴等の目の届かない場所に隠れていたので、食事を摂っていない。
なにか作るのは億劫だった。
「なんか残ってないかな・・・。」
冷蔵庫の中を覗くと、誰かの食べ残しのサラダがあった。
「ま、いいか。」
なにもないよりはマシだ。
どうせ何を食べたって、味気なく感じるだけだ。
とりあえず、腹が満たされれば、それでいい。
「げ。ピーマン、多いな・・・。」
自分で作るときは、自分の好みの食材で、好みの味付けもできるが、人が作ったものというのは、どうしてこうもおいしく感じられないのだろう。
「さて。宿題して・・・。」
後は部屋でネットでもするか、お気に入りのDVDでも見れば、その間だけは嫌なことは忘れられる。
「あれ?俺、鍵かけてなかったっけ・・・?」
部屋に入ろうとして、すんなりと扉が開いたのを不思議に思った。
「あ・・・だ・・・誰・・・?」
そして、自分の部屋に見知らぬ誰かがいたことに驚いた。
「おっ!お前、左京か?」
「え・・・。」
見覚えのない人だった。が、相手は自分のことを知っている。
「いや~。覚えてないのも無理ないか!まだほんの小さい頃に会ったっきりだもんなぁ!大きく・・・なってないか。チビだなぁ。お前。」
「え・・・会ったこと・・・?あるの?」
「お前の叔父さ!桜庭慎太郎ってんだ!」
「母さんの・・・?」
「そ。弟!」
桜庭慎太郎、という名前には聞き覚えがあった。
両親がその名前を口にするのを何度か聞いていたのだ。
「叔父さんなんだ!どうしたの?母さんに会いに来たの?」
「まぁな。」
「ここはお前の部屋か?愉快ないい部屋だな!この散らかり具合が、なんとも好みだ!」
「え・・・あれ・・・?」
「そういえば俺・・・鍵かけてたはずなのに・・・。どうやって入ったんだよ。」
「鍵?鍵なんかかかってなかったぞ?」
「え?」
家を出るとき、閉め忘れたのだろうか?
そうでもなければ、慎太郎がこの部屋に入ることなど出来るはずがない。
なんとなく腑に落ちなかったが、そう思うしかない。
「姉さんたちは何時頃帰ってくるんだ?」
「う・・・ん。いつも遅いんだ・・・。」
「そっか。」
「じゃ、待たせて貰うかな。頼み込んで2、3日いるつもりだし。一緒にゲームするか?」
「俺・・・宿題やんなきゃ。」
「なんだぁ。宿題なんか。手伝ってやろうか?」
「ホント!?」
「ああ。高校生の宿題なんかちょろいもんだ!」
最初は、怪しい人だと思った。
けれど、母親の弟であることを知り、話をしてみると、面白い人だった。
自分に対し、なんの屈託もなく話しかけてくれて、気持ちが安らいだ。
宿題を手伝ってくれる、と言われ、この上もなく嬉しかった。
こんな些細なことが、ひどく嬉しかったのだ。
「なに?これ、連続モノ?」
「うん。面白いんだよ。」
「ふーむ・・・。」
「ふーむ・・・。」
「うんうん。」
「うんうん。」
「あっ!こんなとこで次回に続くかぁ・・・。」
「いや~面白いな!!初めて見たよ!」
「叔父さんもテレビ、見ないの?ウチの父さんと母さんは見ないんだ。」
「いや?俺は見れるときは見るさ!あちこち旅してるから、家にはあんまりモノ置かないようにしてるだけだ!」
二人で遅くまでテレビを見ていたが、両親はまだ帰ってこない。
明日も学校があるから・・・と左京が自分の部屋で眠りについた頃、ようやく以蔵が帰ってきた。
「ん?ヒイナ、帰ってるのかな?」
リビングに人の気配を感じた。
既に深夜を回っている。左京はもう眠りについているだろう。
「今日は遅くなるって言ってなかったっけ?」
もう十分遅い時間ではあるのだが、ロケなら帰りが朝方になることも多いのだ。
しかし、リビングにいたのはヒイナではなく、
「お・・・慎太郎くん!!」
「よっ。こんな時間まで仕事かい?」
「まぁね。何しに来たんだ?」
「ご挨拶だねぇ~。うわさのこの街を見に来たってわけよ。」
「感想は?どうだ?」
「いや、いい街だな!いい空気に満ちてるよ!」
「そうなんだろ?俺にはよく分からんが・・・。」
「よく見つけたな!さすがは姉さんだ!」
「それでも何年もかかったよ。」
「俺も越してこようかな?故郷は人が多すぎるし、転々とするのも飽きたしなぁ。」
慎太郎に会ったのは何年ぶりだろうか・・・と以蔵は思っていた。
自分たちが居場所を変えるたびに、こうやってふらり、と現れては、数日滞在して、またどこかへ行くのだが、ここに住み着いてからもう、数年になる。
「以蔵、ただい・・・え・・・慎ちゃん!!」
以蔵と慎太郎が話しこんでいると、ほどなくヒイナも帰ってきた。
「よっ!姉さん、久しぶり!」
「いつ来たの?」
「昼間ついたんだ。」
「左京と遊んでたんだぜ。」
「左京と・・・?」
「なんつーか・・・可愛い子だな!アイツ。けど・・・。」
「うまく育ってないな。ありゃあ。」
「どういう意味よ。」
結婚すらしていない慎太郎に、こんなことを言われる筋合いはない。
「言葉通りの意味だけど?アンタたち、仕事だなんだっつって、アイツに構ってやってないだろ?」
「それは・・・。」
「だーからこんなヤツと結婚するなんて、反対したんだ!」
「ちゃんと許可は貰ったでしょ!!」
「それでもさ。アイツは結婚するための単なる道具だったってわけ?」
「慎太郎くん!随分な言い草だな!!俺たちはちゃんと左京を育ててる!!」
「そうかな?・・・アンタたち・・・聞こえないんだろ?」
「え・・・?なにが?」
「アイツの叫び声が。」
「叫び・・・?叫んでなんかないよ。左京は。」
「叫んでるさ!顔見りゃ分かる。」
「・・・ま、それはともかく、俺は2、3日滞在させてもらうからさ。
その間、左京とたっぷり遊んでやるさ。客間は?二階?」
慎太郎の言葉の意味が、以蔵にもヒイナにも分からなかった。
左京を随分と長い間、手元から離していたのは事実だが、それは訳あってのことだったし、一緒に暮らすようになったことを、疎ましく感じているわけではない。
今はまだ、ぎくしゃくとした関係ではあったが、血を分けた親子であるのだから、いつかは心を開いてくれる、そう信じていた。
「こんなところにも図書館、あったんだぁ。」
週末、左京はダウンタウンまで足を伸ばしていた。
三人組が金を用意しろ、と言っていた期限の日だったが、家に帰れば押しかけてくるかもしれない。
慎太郎がいれば、左京は真っ直ぐ家に帰ったのだったが、今日はどこかへ出かけると言っていた。
ならば、学校や家の近くではなく、遠くまで足を伸ばして、門限ぎりぎりまでやり過ごせばいい。
「ここ、まだ新しいんだな!キレイな建物だな。」
左京にとって不幸だったのは、ここ、ダウンタウンこそが、あの三人組のホームグラウンドであることを知らなかったことだ。
「くっそ・・・佐土原のヤツ、ちょこまかと逃げ回りやがって・・・。」
「なぁ、ジェイク、どうする?マジ金ねえよ。」
「街で誰かとっ捕まえてカツアゲすっか?」
「つーか、今、それヤバくね?お前の親父パクられて、お前も目ぇつけられてんだろ?」
「まぁな。」
「ちっ。ボスがさっさと保釈金積んでくれれば、親父もすぐ出てこられるのによぉ。」
「あれ?」
「どうした。トモ。」
「あれ・・・佐土原じゃね?」
「え?」
「おっ!アイツ、こんなトコにいやがったか!」
「とっ捕まえるぜ!!」
「よぉ!佐土原!!」
背後から声をかけられ、ビクっ、と文字通り身体が震えた。
こんなところで見つかるとは思わずにいた左京は不意打ちを食らい、有無を言わさず、近くの廃屋に連れ込まれた。
「おらぁ!!」
「あ・・・っ。イタっ!!」
「このガキ!!ちょろちょろ逃げ回りやがってよぉ!!」
「金は!?ああ!?約束したよな!!」
恐ろしい形相で詰め寄ってくる彼等に対し、左京は小さく震えることしか出来なかった。
「も・・・持ってない・・・。」
はなから金など用意する気はない。
だからこそ、逃げ回っていたのだ。
「なんだと!!この野郎っ!!」
「あっ!!」
殴られるのは・・・仕方ないと思うのだ。
だが、いくら殴られても、こんな奴等に金を渡す気にはなれないし、もし、殴られたことで大怪我を負わされでもしたら、その時は警察に訴え出ればいいと思っていた。
苛めではなく、傷害なら、きっと警察は動いてくれる。
「コイツ・・・いくら殴っても無駄みたいだな・・・。」
「ちっとも堪えてねぇよ。」
これで諦めてくれるのか・・・と左京は一瞬、安堵した。
「そうだ。親父が言ってたんだけどよ。」
しかし、その安堵が、一瞬にして恐怖に変わった。
「男でも女でも、言うこと聞かねえヤツを従わせるのは、レイプが一番効くんだとよ!」
「へっへっ!そりゃ面白ぇや!」
「さすがだな!ジェイクの親父!!」
「けどよ。男だぜ?勃つのかよ。ジェイク。」
「そりゃ俺だって女のほうがいいさ。」
「けどコイツ、チビだし細っこいしよ。顔も女みてぇだし、案外具合、いいかもな!」
「うくくっ!そうだな!」
「お前らにも、後でやらしてやっからよ!」
「へへっ!輪姦しちまうか!」
「そうすりゃ、イヤでも言うこと聞くだろ!!」
笑いあいながらそんなことを言う彼等の言葉が信じられず、左京は震えながら耳を塞いでいた。
ただの冗談であって欲しい。
そんなことをするなど、ありえない。
しかし・・・
「よし。」
「脱がせろ!」
「あっ!イヤ・・・っ!!」
「へっへへっ。お嬢ちゃ~ん。抵抗しても無駄だよ~。」
「や・・・やめ・・・。」
「ほーら!もう1枚!!」
「可愛がってやっからさぁ。」
どんなに足掻いても無駄だった。
服を剥ぎ取られ、大声で助けを呼びたいのに、恐怖感に支配され、喉が引きつって声も出ない。
・・・と、彼等は、左京の上半身を裸にしたところで手を止めた。
「げ・・・。」
「・・・なんだ?コイツ・・・。」
「・・・チビのくせに・・・。」
彼等は、左京の胸元に、びっしりと胸毛が生えているのを見て、手を止めたのだ。
「げー。気持ち悪ぃ!」
「こんなんじゃ、抱く気も失せるぜ・・・。」
「下もかよ?」
「確かめてやろうぜ。全部脱がせろや。」
「OK!」
「・・・ふん。マジで突っ込む気、失せたわ。」
「どうする?ジェイク。」
左京がまだ、幼い体つきをしているので、体毛もまばらに生え揃っていない、白い肌でも想像していたのだろう。
彼等は、素裸にした後、左京に手を出すのを止めた。
だが、それで終わったわけではなかった。
「・・・なぁ、こんなの、どうだ?」
「ん?」
「佐土原!お前、そこでオナニーしろ!!」
「え・・・っ?そ・・・そんなこと出来るわけ・・・。」
「やかましい!!出来るとか出来ねえとかじゃねぇんだよ!!やれ、つってんの!!」
「あぅっ!!」
「おら!!さっさとやんねぇと、てめぇのケツに鉄パイプぶっこむぞ!!」
「サトシ、外行って適当なヤツ、何本か拾ってきな!」
「ぶっといヤツがいいんじゃね?」
「え・・・。」
「ほーら!早くやんねぇと、マジでつっこむぜぇ?いーち、にーぃ・・・。」
「う・・・。」
「泣いてねぇでさっさと足開け!!」
「・・・っく・・・。」
このとき、
左京がとった行動は、間違いだろうか?
「よぉ~し!いいぞ!!最後までやれ!!」
では他に、
なにか方法があったとでもいうのか?
限られた選択肢の中で、左京はプライドを捨てることを選んだだけだ。
「う・・・。」
「へへ・・・。」
「気持ち悪ぃ。コイツ、ホントにやりやがった。」
「どうだ?スッキリしたか?」
「・・・。」
「お前、今度学校で、公開オナニーさせてやるよ!」
「え・・・。」
「そ・・・そんなの・・・。」
「やかましいんだよっ!!」
「あ・・・っ・・・。」
「絶対やらせるからな!!逃げるなよ!!」
「学校来なかったら、てめぇんち、火ぃつけに行くからな!!」
もう・・・
どうすればいいのか分からない。
逃げても逃げなくても、酷い目に合わされる。
敵愾心を捨て、気概を捨て、プライドも捨てた。
もう、他に捨てられるものなど・・・何もなかった。
( ゚▽゚)/コンバンハ
返信削除なんと、左京君かわいそうすぎる(TmT)ウゥゥ・・・
オジサマが彼の寂しい気持ちとかをわかってくれたみたいでホッとしたのもつかの間、とんでもない悪ガキたちですなヾ(。`Д´。)ノ彡プンプン
でも辛い思いをした分だけ他人に優しくなれる(その人の立場が理解できる)と言います。
まぁ、そうならない人もいますが・・・てか、自分が辛かったからって他人にもっと辛く当たる人。アレもよくわかりませんが・・・(-"-;)
とにかく左京君は絶対人の気持ちがわかるいい男になると信じています!
がんばれぇええええ≧(´▽`)≦
もんぷちさん、こんにちは!!
返信削除左京のこと、応援してくださってありがとうございます!!
慎太郎叔父さんは、子供っぽいところがあるので、
左京と気が合うんです(^-^)
別に左京のことを不憫に思って・・・とかいうのではなく、
純粋に自分が遊びたいんですよね~。
でも、そういう人のほうが左京にとっては嬉しいのかも。
この三人組、相当な悪ガキです!
この後もいろいろ悪さするんですけど・・・
今回が一番酷いです(ノ_-;)
なので、早めに次回分を書き上げて、アップしたいんですよ~。
早ければ今夜中にでも・・・。
左京はいい男になりますよ♪絶対!!