「橘花、おはよ!ね、こないだ言ってたさぁー・・・。」
「ん?」
「おごってあげるからどっか行こう、って話し!」
「ああ!」
「今日は?どう?」
「いいよー。でも・・・先に委託販売所行かなきゃなんないから、公園で待ってて。」
「それ、時間かかる?一緒に行こうか?」
「すぐ済むから。」
約束通り、休みの日に、まんまと橘花を誘い出すことに成功しました。
家の中では、誰かがいるし、平日は仕事が忙しく、なかなか橘花と二人になることが出来ません。
久しぶりに二人っきりで時間を過ごすことが出来るので、ダニエル、うきうきしています。
「お待たせ!」
「あっ!ちょっと待って!もうちょっとで詰むから・・・。」
なのに、公園でチェスの練習を始めてしまって、ハマってしまったダニエル。
「んもー。ワタシ、お腹減っちゃったよ・・・。」
「んー・・・これがこう来て・・・あれ・・・?」
・・・と、側を通りかかったフランシスに気付いたダニエルです。
「今の・・・兄ちゃん!」
「え?ダニエルのお兄さん?」
「兄ちゃん!!」
久しぶりに、兄・フランシスに会ったダニエルです。
「兄ちゃん!久しぶり!元気してた?」
「ああ。お前も元気そうだな。」
久しぶりなので話しも弾みます。
ほったらかされた橘花は、どこぞから電話がかかってきて、おしゃべりし始めてしまいました。
「ね。ちゃんと食べてる?今、どこにいるの?」
「ふむ。結婚してな。子供も出来たんだ。」
「えっ・・・それ・・・早くない・・・?」
「うーむ・・・手っ取り早く言えば出来婚というヤツだ。」
「なんだ・・・付き合ってる人、いたんだ。」
「ま、妻は資産家なのでな!お前は・・・あの子と付き合ってんのか?」
「んー・・・そういうんじゃないんだけど・・・。」
「あの子に悪いから、もう行くよ。今度、家に遊びに来てくれ。」
「行くよ!絶対!!」
フランシスが気を利かせてくれたので、ようやく食事に行くことにしました。
やってきたのはビストロですが、そこで、思いもかけず、『大食い大会』が開催されていたので、いちもにもなく参加します!
「あ~お腹いっぱい!よかったね!ご飯代浮いて。」
「んー・・・ラッキーだったな。」
「でもさー。それじゃ俺がおごったことにならないよ。」
「いいじゃん、別に。そんなに無駄遣いすることないでしょ?」
「こう見えても、結構稼いでるんだぜ?」
「お医者さんって儲かるの?」
「だいぶ実入りがよくなってきたんだ!」
「メス捌きも華麗なもんだぜ?今度見せてやるよ!」
「・・・メス捌きは別に見たくないけど・・・。」
「でも、ダニエルってお医者に向いてたんだね。最初はそうは見えなかったけど。」
「最初は見えなかったってなんだよ・・・。」
「褒めてんだよ?」
「うん?」
「名医になる日も近いんじゃない?」
褒められたと知って、ちょっと照れくさくなってしまいました。
「あ・・・あのさ・・・。」
「なーに?」
「このまんま帰るのもなんだし・・・。腹ごなしに散歩でもしていかない?」
「そうだねー。」
まだ日が暮れるまで間がありますので、水辺を散歩することにしましょう。
「ここって・・・海じゃないよね?」
「うん。海に流れ込む一歩手前。水深は浅いんだ。」
「泳げる?」
「あんま水はキレイじゃないけど、泳げるよ!ガキの頃はたまーに泳いだな~。」
「ダニエルはツイン・ブルック生まれ?」
「そうだよ。そんなに都会じゃないけどさ。うんと昔は、湿地帯が広がってて、とても人が住めた街じゃなかったんだって。」
「へぇ。」
「今でも湿地帯は残ってるけど、100年以上かかってここまで街が発展したんだよ。」
「ふぅん。」
「そんなに歴史のある街じゃないけど、なんでも昔はさ、芸術が盛んだった時代もあったみたいだけど。」
「どのくらい昔の話?」
「150年くらいかなぁ。」
「その頃、どんなんだったんだろうね。」
「見当もつかないや。」
話し込んでいるうちに日が暮れました。
なんだかロマンチックな雰囲気にはならないんですが、橘花とこんなに長い時間を過ごせて、幸せな気分になったダニエルでした。
チェスは「詰む」とか言わないんでしょうか?
二人っきりになっても、ちっともロマンチックなムードにならない二人。
まだ早いか。
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