「ね、左京。欲しい本、見つかった?」
「こっち、見たことない雑誌とかあるなぁ。」
「ローカル紙でしょ。」
「暇つぶしだからなんでもよかったんだよ。地元のグルメ雑誌とか買っちゃったよ。」
「パパの原稿は?読むんじゃないの?」
「あれは真剣に読まないといけないから、その合間の頭休め。・・・お前、あれ読んだの?」
「自分が主役の話なんてイヤよ!本になってからこっそり読むわ。」
「面白いぜ?主役はお前だけど、お前じゃないみたいだ。圭介さんの文章力、すごいんだもん。」
「そうなの?」
子供の頃からずっと、圭介が書いたものは読んできたが、特別、すごいとかうまいとか思ったことはない。
ただ・・・他の人が書いたものを読んでみて、退屈だ、と思うことはあった。
圭介ならここはこう書くだろうなどと考えてしまい、それ以上読み進める気が失せることはあった。
「圭介さんって・・・実はすごい才能持ってんじゃないの?売れないとか言ってるけど。」
「ワタシ、そういうことよく分からなくって。けど、ちゃんとそれで生活出来てるんだから、そこそこだとは思うのよ。」
「いや、ホント。文章うまいぜ?読んでみろよ。」
「うん。」
主人公が、自分をモデルにした人物なので、なんだか読むのが気恥ずかしい気がしていたが、左京がそうまで言うのなら読んでみようか、という気になっていた。
「なっ、海行こう!海!!」
「うん!」
「あ・・・。」
カスケード・ショアーズには何度も足を運んでいたが、こうやって海岸沿いまでくるのは初めてだった。
「すごい・・・。」
その水の色の澄んだ青さに吸い込まれそうだった。
「気に入った?」
「すごい・・・キレイだ・・・。」
「海だぁーーーっ!!!」
「待って!待って!左京!!そんなに走らないでっ!!」
海に向かって一直線に駆けて行こうとした左京だったが、橘花の声に制止され、足を止めたところで、そこにある建物が気にかかった。
「これ・・・灯台・・・?」
「うん。中には入れないけどね!」
「俺・・・こんな間近で灯台見たことないや。」
「灯台の近くに住んでたんじゃないの?」
「離れ小島みたいなところに建ってたから・・・。船出さなきゃ行けなかったんだよ。」
「ここも中には入れないんだけどね。」
「入れないの?」
「鍵がかかってるの。年にいっぺんくらい役所の人が鍵開けて、メンテナンスとかしてるみたい。」
「なんだ。がっかりだな。」
けれど・・・初めて間近で見た灯台は、空に向かって真っ直ぐにそびえたっていた。
中に入れなくとも、その存在感は、左京を感動させるのに十分だった。
「どうしたの?左京。黙っちゃって・・・。」
「うん・・・。でっかいなぁ、って思って・・・。」
「なんか・・・いいよな。」
「うん。」
「・・・あ。今度の家さ、目の前に灯台あるんだぜ!」
「ホント!?楽しみ~!」
「ワタシ、ロスなんて行ったことないよ。都会なんでしょ?」
「都会だけど、家は郊外だよ。街の中のごちゃごちゃしたとこに住みたくなくってさ。」
「ワタシも街中は無理だなぁ。」
「だろ?郊外のさ、周りに家とかもあんまりなくって、海の側で、静かなとこだよ。」
「ふふっ。そっちの方がいい。」
灯台から離れ、来た道とは反対側に出てみると、そこには美しい建物があった。
「・・・な。あれ・・・なに?」
「どれ?」
「あの建物・・・。」
「ああ。教会。」
「教会・・・。」
「普段は牧師さんもいないの。街の人がたまに来て、お祈りしたりしてるよ。」
「中・・・入ってみたいな。」
「なんにもないよ?」
「何もなくても・・・。」
左京は、この海に面した、灯台を臨む場所にある教会を見て、大事なことをやっと思い出した。
指輪は買った。
プロポーズもした。
けれど・・・その後のことを考えるのを忘れていたのだ。
「キレイな教会だな・・・。」
「うん。ちっちゃいけどね、好きなんだぁ。この場所。」
「ふふっ。昔、よく来たなぁ。」
「お祈りしに?」
「ううん。」
「・・・わ・・・。」
確かに小さな教会で、さほど装飾が施されているわけではない。
けれど、一歩足を踏み入れると、ひんやりとして、厳粛な空気に包まれている。
なんだか異空間に迷い込んだようだった。
「・・・橘花。そこ、座ろう。」
「うん。」
二人は、誰もいない教会のベンチに腰をおろした。
「・・・さっき、何しに来てたって?」
「デート!」
「なんだとっ!?」
「学生の頃よ。だーれもいないから、こっそりここに来て・・・。」
「どこの誰だよっ!?」
「同級生とか。」
「とかってなんだよ!!何人もいるのかよっ!?」
「昔の話だってば。」
「むぅ~・・・なんか悔しいっ!」
「ワタシだって、付き合ってた男の子くらいいたよ。左京だっていたでしょ?」
「い・・・いないよっ!」
「ウソばっかり。」
「・・・うん。まぁ・・・ウソだけど・・・。」
「いいじゃない。昔のことなんだから。」
「うん・・・でもなんか、悔しいな・・・。」
「今は左京と一緒にいるのに。もう、ずーーっと一緒にいるんだよ?」
「それだよ・・・。」
「ん?」
「ゴメン・・・俺、式場の予約するの、忘れてた・・・。」
「式・・・挙げるつもりだったの?」
「ん~・・・だってさぁ。お前のウェディングドレス姿、見たいもん。」
「籍入れるだけでいいのかと思ってた。」
「それでいいのか?」
「なんにも考えてなかった。左京の言う通りにしようって。」
「お前・・・そんな自我のないことでいいのかよ。」
「二人でゆっくり考えればいいかな、って思ってただけよ。」
「ん~・・・そっか。」
「・・・あのさぁ・・・橘花・・・。」
「ん?」
「・・・俺・・・ゆっくりなんて・・・考えられないや・・・。」
この厳かな空気に包まれた場所で、橘花に触れると、胸が高鳴った。
「ちょっと・・・こっち来て。」
「ん?」
「そうだな・・・。」
「なぁに?」
「式場の予約なんかしなくてよかったかも。」
「どうしたの?」
「そこ立って。」
「ここ?」
「そ。」
「橘花・・・。」
「結婚しよう!今、ここで!」
「えっ!?」
「イヤか?」
「唐突なんだもん・・・いっつも・・・。」
「諦めろって!俺はこういうヤツなのっ!」
「もう・・・待てないよ。待たなくていいだろ?」
「そうね・・・。」
結婚式を挙げるならここだ、と橘花は小さな頃から思っていた。
時々、街の人がここで式を挙げているのを見て、憧れた。
そんな思い出の場所で、左京が結婚しよう、と言ってくれるなら、誰が見ていなくてもいい。普段着のままでいい。
左京と今、ここで結婚したい。
「あ。俺さぁ、お前のウェディングドレス姿、見たことあるんだぜ?」
「え?どこでっ!?」
「ロッタちゃんの衣裳合わせ、お前ついて行ったろ?俺、あん時、サロンの前、通りかかったんだよ!」
「え~・・・あれ・・・見られてたんだぁ・・・。」
「キレイだったなぁ。なんか妙に感動しちゃってさぁ。あの時、お前にちゃんとドレス着せてやりたいな、って思ったんだ。」
「そうだったんだ・・・。」
「ゴメンな・・・。ちゃんと着せてやれなくって・・・。」
「別にいいのに・・・似合わないし・・・。」
「バカ!お前、似合わないなんてことあるかよっ!お前さー・・・なんでそんなに自分の容姿、過小評価してんの?」
「・・・なんで怒るのよ・・・。」
「お前さ、キレイなんだから自信持てって言ってんの!」
「そんなに自惚れらんないって。左京だけがそう思ってくれればいいよ。」
「俺だけじゃないって!お前があんまりキレイになると、他の男に声かけられたりしやしないか、ってヒヤヒヤすんだよっ!」
「それ、キレイになって欲しいの?欲しくないの?」
「う・・・。なられても困るけど・・・なって欲しいとも・・・。」
「変なのっ。」
「と・・・とにかくさっ。俺、お前のあの時のドレス姿思い浮かべるから・・・。」
「じゃ、ワタシは左京のスーツ姿、思い出そう。カッコよかったんだもん。」
「えーっと・・・どんな台詞だったっけ・・・。汝、柑崎橘花は、佐土原左京を夫とし、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを誓いますか?」
「誓います。」
「お前も言って?」
「えーっと・・・汝、佐土原左京は、柑崎橘花を妻とし、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを誓いますか?」
「もちろん!」
「そんな返事?」
「・・・誓います!」
「よしっ!これであとは、キスして契約成立・・・だよな!」
「うん!」
「えーっと・・・指輪は今度買っとく。写真も・・・貸衣装借りて撮ればいいよな・・・?」
「それでいいよ。」
「・・・なんか締まらねぇなぁ・・・。」
「その行き当たりばったりさが好きなんだけどね。」
「ホントか?」
「一緒にいて飽きないもん。」
「橘花・・・この後すぐ・・・役所行って、入籍しよう。」
「うん。それだけでいいのかって思ってたんだよ。」
「そっか・・・。」
「じゃ・・・誓いのキスを・・・。」
「左京・・・ずっと一緒にいてね。」
「それ、俺の台詞!」
「橘花・・・。」
「左京・・・。」
二人がまさに、誓いのキスを交わそうとした、その瞬間である。
「その結婚、ちょっと待った!!!」
「え?」
以下次号!!
ユズさんば━(●'v`)b━んちゃ!!!!!
返信削除あぁぁ~~ヨカッタっ!
「ちょっとまった!」キターーーーーッ!w
もぉ左京ったらほんとセッカチと言うか
我慢が足らないと言うか行き当たりばったり過ぎで・・
橘花ちゃんが好きならそれでいいんだけどね(*≧m≦*)
やっぱり父としてはですね~
娘を必死で育てたわけですよねっ!
その大事な大事な娘をどこの馬の骨かわからんやつにwww
盗られるわけですよっ!
それなのになのに、花嫁衣裳も見れないなんて
親としては本当に切ないことですたいっ!
ぽよ~ん父は許しませんっwww
相変らずの建築技術でとってもステキでワクワクしました☆
次回はいよいよですね♪
だって橘花ちゃんのウエディング姿、超綺麗なんだもん。
楽しみ~~~♪
止めてくれて本当に゚.+:。(´∀`)゚.+:。ありがとう!
もーこのままかとドキドキしちゃいました・・本当にw
ぽよ~んさん、こんばんはっ!!
返信削除きましたよ~(^-^*)「ちょっと待ったーーっ!!」
このまま結婚なんて・・・ワタシもゆ・る・し・ま・せ・んっ!!
この日の為に建てた教会!!シチュエーション!!
左京ったら、自分だって人の親なのに、パパのこと全然考えてないんだもん。
次回、パパの気持ちが明らかになりますよ~。
ちょっとは反省してもらわなくっちゃ!!
そーそー。大事に育てた愛する一人娘なんですよね~。
左京にやるくらいなら自分が・・・とまでは思わないけど、やっぱり悔しいんですよ。
結婚式は、次回とその次、二回にわたってお届けしますww
次ではまだ、結婚出来ません(* ̄m ̄)
楽しみにお待ちくださいませ♪