「あ!橘花、帰って来た!なぁ、この人さ・・・。」

外から帰ってきた橘花に、ダニエルはエリックを紹介しようとしましたが、その前に橘花が大きな声を上げました。
「オジサンっ!?」
「やぁ。久しぶりだね。どうだい?彫刻の腕は上がったかな?」
「オジサン、なんでここに・・・?」

「いやぁ~。ダニエルくんに招かれてね。そろそろ君の様子も見たいと思ってたところだったし・・・。」
「・・・なんだよ、橘花。エリックのこと知ってるのか・・・?」

橘花にこの家を提供してくれたあの時のオジサンが、まさか家を訪ねてくるとは思いもよらず、橘花は軽く混乱していました。
「なんで?どうして?エリックって名前なの?ダニエルと知り合いなの?」
「そう矢継ぎ早に聞かないでくれよー。ダニエルくんとは仕事仲間なんだ。」
「お医者さんなの?」
「そ。表向きはね。」

「なんだよ・・・どういうこと?」
「ダニエル・・・この人が、この家の本当の持ち主・・・。」
「え?」
「ま、持ち主っていうかね。条件付きで住んでもらうように言ったのは私だよ。」
「なんで・・・?」

ダニエルにも、もちろんギルにも一瞬では理解できません。
「いや~。そのことも含めて、話すことにするよ。」
「俺たちがここに住んでることが、伝説の話に絡んでるの?」
「伝説・・・ってのはどうか分からないけどな。」

穏やかだった土曜日が、一気にざわざわとざわめいてきました。
「なんだなんだ?玄関先でなに騒いでるんだよ、お前ら。」

気配を察して、奥から左京も出てきました。
「ふむ・・・住人は・・・これだけ?」
「まだいるの。あと二人。」
「そうか。」
「橘花ちゃん。誰だい?その人は?」

「改めて・・・私の名前は、エリック・エヴァンス。ツイン・ブルックの片隅に今は住んでいるんだ。」

男三人、非常に胡散臭そうです。
「エリック・・・ね。どうして見ず知らずのワタシなんかに、この家を提供してくれたの?」
「見ず知らず?見ず知らずの女の子に無償で家を貸すほど酔狂じゃないさ!」
「え?会った事・・・あるの?」
「昔ね。」

「昔・・・?」
エリックはそう言いましたが、橘花には記憶がありません。
「ま、君がまだほんの小さい頃だったからな。覚えていないのも無理はない。」
「どうして?じゃ、パパのことも知ってるの?」
「あれっきり会ってないけど・・・あの時は世話になったなぁ。」

「・・・ま、そのことも含めて・・・長い話しだから・・・ベッドでゆっくり話そうか・・・?」
「え・・・。」

・・・とエリックは橘花に迫ってきました。
「橘花さん!危ないっ!!」

ぼかっ!!!
宗太のスキルMAXの蹴りが炸裂!
「ちょ・・・!普通に話してっ!!」
「あ~・・・。」

「ひどいなぁ・・・。せっかくこの家にまつわる話、しに来たってのに・・・。」
「え?そうだったんだ?ボク、橘花さんが襲われてるのかと思って・・・。」
「宗太くん、正解。」

鼻血出してにやにやするのがますます怪しいんですが・・・。
「ま、話すにしても・・・まず確認させてもらうよ。」
「なに?」

そう言ってエリックは、家の奥に入っていきました。
「なんなの?」
「いやいやいや・・・。話すか話さないかは、君がどの程度腕を上げたのか確認してから・・・。」

勝手に作業場に入り、エリックはあたりを見回しました。
「お・・・あれは・・・?」

エリックは、庭に無造作に置かれた彫刻に目を留め、外に出ました。
「これは・・・。」
「あー・・・今朝作ったんだけどー・・・。全然知らない人だし、なんだか気持ち悪くなって・・・。」

「グレイト!!」

「ふむ・・・素晴らしい・・・。」
「オジサン、この人知ってるの?」
「ああ。知ってるさ。」
「・・・誰?」
「・・・チャールズ・クレメンタインさ!」

「・・・え?」
「やってくれたな。君には話を聞く資格がある。」
「なに?資格って?」
「・・・長くなるけど・・・聞いてもらえるかい?」

チャールズ・クレメンタインと聞いて、何度も開いた歴史の本のページの写真が頭に浮かんできました。
何度も繰り返し見ていたので、それでこんな彫像を作ってしまったのでしょうか。
「まぁ、座りなさい。話して聞かせよう。」
「・・・。」
「俺も聞く!」
「どうせなら、みんなで聞いてもらいたいな。」

「どしたのー?なんか面白そう!」
「この家の謎・・・か?知りたいな。」
「・・・胡散臭い。」

「ギル、そんな顔しないで座れって。ウソでも面白そうじゃないか。」
「・・・しょうがないな・・・。」

長い一夜の始まりです。

・・・ってか、導入が長いっ!!
まだ話は始まらないのかっ!!
ここからしばらく、過去のお話になります。
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