「あれっ?ケイちゃん、どっか行くの?」
「うん。」
「雪が止んでるうちに石拾いに行くんだ。」
「石?石なんかなんにするの?」
「冬休みの宿題。この辺、鉱石とか宝石の原石とかたまに落ちてるから、
拾って標本にするんだ。」
「なにそれ。面白そう。俺も一緒に行くよ。」
雪がまた降り始めると、石が見つけにくくなるので、ケイは今のうちに
外出しようと思っていたところ、アールが食いついてきた。
「遭難されたらヤだからついてこないで。」
「そ・・・遭難なんかしないよ。」
「だって、雪道歩くの、慣れてないでしょ?」
「う・・・そうだけど・・・。」
確かに雪道に慣れていないアールと一緒に外出するのは、ケイには負担なのだろう。
けれど、置いていかれるのは寂しかった。
「ついてきちゃダメだからね。」
ケイは、アールから、ついて行く、と言われた時、本当はちょっと嬉しかった。
今までおばあちゃん以外の誰かと遊びに行くことなどほとんどなかったのだ。
この町は過疎化が進んでおり、子供の数が少ない。
学校の友達もいるにはいるが、みんな町の中心街に住んでいて、
気軽に誘うこともできなかったのだ。
けれど、こんなに雪が積もっている道は、雪に慣れていないアールには危険だと思った。
それだけだったのだ。
「あら。ケイちゃん、一人で行っちゃったの?」
「遭難されたらヤだからって・・・。」
取り残されたアールが、ケイの後ろ姿を見送って寂しそうにしているのを見て、
おばあちゃんが声をかけた。
「追いかけてごらん。今なら雪、止んでるし、そう簡単に遭難なんかしないよ。」
「大丈夫かな?」
「スノーシューズ履いてけば大丈夫だよ。」
「でも・・・ケイちゃん、ついてこないでって・・・。」
「追いかけていけば、追い返したりしないよ。」
今ならまだ、そう遠くまでは行っていないだろうから、とおばあちゃんに言われ、
アールはそそくさとスノーシューズを履いて外に飛び出したのだ。
「うぉー。寒い!」
確かに、しっかりとスノーシューズを履いていても、雪に足を取られそうになる。
だけどアールは、ケイに追いつきたい一心で、必死に走った。
「ケイちゃーん!」
ケイは、石を探して雪道を駆け上っていたが、自分を呼ぶ声が遠くから聞こえたような気がして駆ける足を緩めた。
「あれ?」
「誰か呼んでる?」
「ケイちゃぁぁぁーーん!」
振り返ってみると、アールが駆け寄ってきていた。
「ついてきちゃダメって言ったじゃん。」
「置いてかないでよー。俺、遭難しないから。」
「・・・ま、ここまでついてこれたんだから大丈夫か。」
「連れてってよー。」
「じゃあ、後で雪ダルマ一緒に作る?」
「えー・・・雪ダルマーー?」
「じゃ帰れ。」
「作る!作るよー!待ってってばー!」
「まずは石探しなんだってば!」
「石ってこんなとこにあるの?雪で埋まってて見えないじゃんかー!」
「だから探してんじゃん。雪降ってないから今がチャンスなの!」
「待ってって!」
ケイは野山を駆け回り、時々足を止めては降り積もった雪の中を探し、
そしてまた走り出す。
アールはついて行くのがやっとだったが、ケイが拒絶しないのをいいことに、
ケイの姿を見失わないように追いかけて回った。
「ま・・・待って・・・。」
追いかけて追いかけて、随分遠くまで走ってきた。
「ケイちゃん、ここ、どこーっ!?」
「あ。ほら。」
「石、発見。」
「あっ!ホントだ。」
「銀かな?」
「あっちにもある!」
「どこ?どこー?」
「拾っていいよ。」
「やった!」
周りを見渡してみると、ここら辺りは、家も多く、町の中心地に近い場所らしかった。
ケイはそれからもいくつか石を見つけ、アールとそれを分け合った。
「すごいなー。ホントに宝石の原石とか落ちてんだなー。」
「売ればお小遣いくらいにはなるんだよ。」
アールはこんな風に友達と遊んだことなどない。
いや、友達がいないというのではない。
たいていはお互いの家に遊びに行って、本を読んだりゲームをしたり、といったことくらいしかしたことがないのだ。
「また雪降ってきたなぁ。」
「今の季節は降ったり止んだりだよ。」
夕刻近くまで石を探して走り回り、
家に帰ると、今度は裏庭に連れ出されて、雪ダルマ作りに取り掛かった。
「ここんち、ゲームとかないの?」
「そんなもんないよ。必要ないし。」
「じゃあさー、もっと都会的遊び場とかないの?」
「都会的遊び場って?田舎なんだからそんなもんあるわけないじゃん。」
「・・・ごもっとも・・・。」
「あ。カラオケボックスならあるけど?」
「カラオケボックス?」
「うん。ばぁちゃんに頼んで、連れて行ってもらう?」
「カラオケかぁ・・・。」
「出来た!」
「こんなの初めて作ったよ・・・。」
「これ、自慢できるかな?」
「どうかな?雪さえあれば作るの簡単だし、そんなに自慢にもならないんじゃない?」
「でも、俺の住んでるトコでこんなでっかい雪ダルマなんか作ったことあるヤツ、絶対いないよ。」
「まぁ、そうかもね。写真でも撮っとく?」
「それいいなー。」
こうやってケイと遊んでいると、ケイが、ゲームなんか必要ない、と言うのが少し分かるような気がした。
家の中にこもっている必要なんかない。
外に飛び出せば、楽しいことがいくらでもある。
この家に来て、アールは初めてそれを知った。
けれど、それは、ケイが一緒だから楽しいのだ、ということにアールが気付くのは、ずいぶん時間が経ってからのことだった。
「へー。ここがカラオケボックス・・・。」
数日後、おばあちゃんに頼んで、カラオケボックスに連れてきてもらった。
こんな町のカラオケボックスなんて、寂れた居酒屋崩れのような場所だろう、と思っていたアールは、案外本格的な・・・いや、自分の住んでいる街にあるカラオケボックスよりもキレイで、設備が整っていることに驚いていた。
「最近出来たんだよねー。」
「いっつも来てるの?」
「何回か。部屋は上だよ。」
「さーて・・・まずはおばあちゃんとデュエットしようかな。」
「(こ・・・これは・・・。)」
都会的遊び場に行きたい、と言ったのは自分だったが、まさかカラオケボックスに連れてこられるとは思っていなかった。
実は・・・アールは音痴である。
音感というものが、ないに等しい。
「でも・・・まぁ・・・ケイちゃんだって子供なんだし、そんなにうまいってことは・・・。」
ところが・・・
「I know I stand in line~♪」
「♪Until you think you have the time~♪」
「な・・・なにこれ・・・。」
おばあちゃんはともかく、ケイの声が・・・
「And oh the night's so blue~♪」
「And then I go and spoil it all~♪」
「「♪Like "I love you"~~♪」」
伸びがあって、部屋中に共鳴する。
「今度は一人で歌うね。」
「今はこーんなに悲ーしくて~♪」
「涙もー枯れー果てーて~♪」
なんだろうこれは。
うまい表現が見つからなくて、アールはじれったかった。
「(キラキラしてる・・・)」
キラキラと光る金色の砂が、音になって零れていくような、そんな感じがする。
「♪まわるーまーわるーよ時代ーは回る~♪」
ケイの歌声を聞いていると、背筋がぞくぞくして、胸が苦しくなるような感覚に襲われた。
今まで聞いたどんな歌手の歌よりも、ケイが一番うまい、と思っていた。
「アールくんも次、歌ってね。」
「え・・・っと・・・でも・・・。」
「俺・・・歌へたくそで・・・。」
「なに言ってんの。別にヘタとか関係ないよ。楽しかったらいいじゃない。」
「んー・・・。」
確かにその通りだ。
ケイの歌声に圧倒されていたアールだったが、せっかく来たのだから、楽しまなければ損だ、と思い直した。
「ケイちゃん、そんなの子供が歌う歌じゃないよー。(うまいけど・・・)」
「そう?」
「この歌、好きなんだもん。」
「でも子供らしくないって。」
「もともと子供なんだから、ことさら子供っぽくしなくったって子供だよ。」
「難しいこと言うなって・・・。歌も、そんな難しい歌じゃなくってさー。」
「じゃ、子供が歌うのってどんなの?」
「俺が歌うから。」
もう、こうなったらやけくそである。
アールはマイクを手に取り、声を張り上げた。
「どっきりどっきりDON DON!!不思議なチカラがわいたら どーしよ~♪」
「大きな声で ピーリカピリララ~ はしゃいーで騒いで歌っちゃえ~♪」
「パパ ママ せんせー ガミガミおーじさん “うるさーい!”なんてね 火山が大噴火 ~~♪」
「すごーい!楽しそう!」
「なるほど。これが子供が歌う歌か!アールくんに教えてもらわなくっちゃ。」
思いもかけないところで、アールの株が上がったようである。
しかし、教えたアールより、ケイが完璧にこの歌を歌い上げるまで、ものの1時間とかからなかったのである・・・。
~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~
ちょっと長くなったかも・・・。
今後の進行を考えると、詰め込まなければと思ったのがこの始末。
アール、なにかどっかで見たことあるような気がしてましたが、のび太にそっくりなんですわ。
過去編、まだ続きます。
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