冬休みの間だけ、ということで桐野家に預けられたアールだったが、
内心ビクビクものだった。
「え・・・っと・・・ここって・・・。」
それはそうだ。
突然見も知らない家に預けられたのである。
たとえそれがわずかながら血の繋がった親戚であったとしても、だ。
「ここね、ケイちゃんのお部屋なんだけど、ベッド一つ入れといたから。」
「ケイちゃん?」
「ばぁちゃんの孫っこ。可愛いよ。」
「女の子?」
「うん。」
見も知らぬ家庭だが、アールより少し年下の子がいるとは聞いていた。
それが救いといえば救い。
「ケイちゃんって・・・どこにいるの?」
「あらホントだ。ケイちゃん、どこ行っちゃったんだろ。」
「雪だから遠出できないって言ってたんだけどねぇ。」
「俺・・・ボク、こんな雪見るの初めてだ。」
「別に言い直さなくっても、『俺』って言っていいよ。」
「いいの?よそでは言葉遣いちゃんとしなさいってお父さん・・・父が。」
「だから言い直さなくっていいんだってば。ばぁちゃん、そういうの
気持ち悪いなー。」
「そ・・・そう?変なの・・・。大人はみんな、イイ子にしてなさい、って
言うのに。」
「変かな?ひと月もいるんだし、イイ子ぶらなくってもいいんだよ。」
「うーん・・・。」
「ケイちゃん探してくるから、くつろいでて。外で遊んでもいいよ。」
「外でって・・・こんな雪の中・・・。
それに・・・家の中でも寒いのに・・・。」
アールはこれほどの雪を見たのは初めてだった。
父に連れられ、車でこの町に入った時から降り始めてはいたが、
それがあっという間に野山を覆い尽くし、あたり一面真っ白になっていた。
それと、さっきのおばあちゃんの言葉・・・。
よその家に遊びに行ったときなど、お行儀よくしていれば、
みんな褒めてくれた。
なのにここでは逆にそれはおかしいと言われる。
「ここって・・・別の世界みたい・・・。」
「初雪記念ー。」
「ぼふ。」
「うひー。冷たー。」
ケイは、親戚の子がくると聞いて、
遠出はせずに家の裏庭で遊んでいた。
「・・・親戚の子ってどんな子だろ。」
気にはなるがおばあちゃんの後ろから興味津々覗き込むのは、
なんだか気後れする。
「雪ダルマとか・・・好きかな?」
それでもケイなりに、なにか歓迎できることはないかと考えていた。
「ぺたぺた。」
「よいしょ。」
「もう一つ。」
「よしよし。」
「いい感じー。」
「完成ー。トラディショナル スノーマン。」
作っているうちに、楽しくなってきて、ケイは何が目的だったのか
すっかり忘れてしまっていた。(実は2個目)
「もう一個作ろうっと。」
「ケイちゃん。こんなとこにいたの。」
「あ。ばぁちゃん。」
「ねぇ、ばぁちゃん。一緒に雪ダルマ作ろ。」(3個目)
「えー。雪ダルマはいいけど、あのね・・・。」
「初雪記念だよ。」
「初雪記念か!いいねー。
よぉーし。じゃ、でっかいの作ろうか!」
「うん。」
「このくらい?」
「うんうん。」
「固めて、固めてー。」
「ぺたぺた。」
「わーい。完成ー。」
「はっ・・・そうじゃなかった。ケイちゃん、おいで。」
「もう一個作る?」
おばあちゃんも夢中になると目的を見失うタイプだったが、
やっとなにをしにきたのか思い出した。
「親戚の子、来てるから紹介しなくっちゃだった。おいで。」
「あー・・・。」
「もう一個作りたかったなー。」
「明日、一緒に作ってくれるかなー。」
家に入ると、件の親戚の子がいた。
家の中の空気がちょっぴり変わったような気がした。
「こんにちは。なんて名前?」
「一ノ瀬アール。君がケイちゃん?」
「うん。桐野ケイ。」
「この家、寒いな。」
「そう?」
「暖房切れちゃってた?」
「(なんか・・・ケイちゃんってネコっぽいな・・・)」
「俺、こんな寒いとこ初めてでさ。」
「(キノコっぽい・・・)」
少し年上だというアールが、さほど年上っぽく見えなかったことに
ケイはほっとしていた。
だけど、男の子と一つ屋根の下、どうやって接すればいいのかと
とまどいを感じずにはいられなかった。
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たいして動きもなく淡々とした話ですみません。
この二人が主人公です。
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