どうして道路を渡るの?

ようこそ、いらっしゃいませ!

こちらでは、EAのTHE SIMS 3での擬似日常をだらだらと綴っています。

*改めてごあいさつ*

長きにわたり、放置していてすみませんでした。

いつかは戻ってくる、と決めていたので、
移転や閉鎖もせず、けどいつの間にか2年半も経っていました。

やっと戻ってこれましたので、イチから出直します。

「君がいた世界」は、未完のまま終了です。
また、別館は閲覧できない状態にしています。

本当に、長い間留守にして、申し訳ありませんでした。

お気に入りリンクの整理、やっとしました。
リンク切れサイト様もいくつかあって、
2年半と言うのは長かったな・・・と改めて実感しています。

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主役ふたり、やっと揃いました。

Calico Capriccioso
第2話 新しい出会いとか再会とか

最終更新日 2015.04.03

金曜日, 8月 29, 2014

プロローグ Side_K③

最初は、グランドピアノの鍵盤の重さを確かめるように、短い曲を1曲。
それから、アレンジを加えたポップな曲をもう1曲。



ケイは生まれて初めて、こんな場所でピアノを弾いた。
いつしかバーの客たちも、ケイとジェイのセッションに耳を傾けていた。


「どうだった?」
「楽しかった!」

ひとしきりピアノを弾いて、ケイは満足だった。
きちんと調律されたグランドピアノはすばらしい音だった。
それだけで、ジェイのことを信用する気にすらなったのだ。

「楽しかった、か。一杯おごるぜ。なんでも頼めよ。」
「いいの?」
「いいぜ。」

「じゃ、ピンク色のカクテル。」
「酒飲めるのか?未成年・・・じゃないよな。」
「お酒、飲んだことないよ。こんな場所来るの初めてだもん。」

「いただきまーす。」
「ケイちゃんさ・・・本気で俺たちのバンド、入らねえ?」

「バンドはしないよ。」
「人気出ると思うけどな。」
「人気出てどうすんの?」
「稼げるだろ?」

そんなこと、考えたこともなかった。

「俺たちはこの街で大人気のバンドになってさ、たくさんのファンに囲まれて、そんで、メジャーデビューするんだ!」
「ふぅーん。」

初めて飲んだカクテルの酔いと、ジェイとセッションした時に感じた興奮は、同質のものだ。


だけどそれらは、一時的なもの。
酔いがさめれば現実が待っている。
ケイはそれを直感的に知っている。

「もう帰る。ごちそうさま。」
「帰るって・・・まだ宵の口だぜ?」

宵の口なんかではない。
時計を見ると、もう日付が変わっていた。

「ジェイさんの宵の口って随分長いね。」
「ジェイでいいよ。」
「じゃあね。ジェイ。おやすみ。」
「待った。待った。俺も帰るから。」

「ああー。眠たー。おねえちゃん、帰ってるかなぁ。」
「なぁ、ケイ。」

「じゃあね!」

ジェイがなにか言いかけたのを振り切って、ケイは駆け出した。
係わり合いになるのは面倒だ、となんとなく思った。
バンドに入ってピアノを弾く?楽団に所属してピアノを弾く?
そうすれば、ジェイの言うとおり、注目されるかもしれない。

けれど・・・そこに自由などありはしない。

好きな時に好きなように弾く。
でないとケイ自身が楽しくない。そんなのはゴメンだ。


「ケイ・・・。俺は諦めねぇぞ。・・・ってか、また連絡先も聞いてねえ・・・。」

まるで、夜空に浮かぶ月に吸い込まれるかのように駆けていくケイの後姿を、ジェイはずっと見送っていた。



一方、勇んで出かけたアイ。

「アイちゃん。今日もキレイだねえ。」
「ありがと。」

「ね。何飲む?」
「軽めのでいいよ。」
「いいの?」

「明日は仕事だし。あんまり遅くなれないでしょ?」
「それもそうだね。」

一応、探りを入れてみたつもりだった。
それでもやっぱり、ディーンはマイペースだった。


「はい。アイちゃん。」
「うん。」

いつものようにバーで待ち合わせて、いつものように二人で飲んで、そして仕事に支障が出ないようにと、日付が変わる前に帰る。
判で押したように、その繰り返し。

「美味しい?」
「まぁまぁかな。」

やっぱり強い酒が欲しくなる。

「まいっちゃうな・・・。」

ディーンはキレイだ、と言ってくれる。
愛してる、とも言ってくれる。
アイが何を言っても、何をやっても、ニコニコと受け入れてくれる。
でもそれは、娘を溺愛している父親の態度のようにも思える。

「なんか・・・分かんなくなってきた・・・。」

父親を随分と早くに亡くした自分が、恋人に父性を求めるのは仕方がないと思う。
けれどもディーンは父親ではない。
自分が家族性を求め過ぎるから、ディーンは一歩引いた位置から、アイを見ているのだろうか。

「ちょっと距離置こう・・・かな・・・。」

そんなことすら考えていた。
そうすれば、ディーンの真意が見えるかもしれないし、自分の気持ちも再確認出来るかもしれない、と思ったのだ。



「あれ、おねえちゃん。帰ってたんだ。」
「うん。さっき。」

ケイはかろうじてアイより先に家にたどり着いていた。
あれこれ詮索されるのもイヤだったので、ホッとしていたところだったのだ。

「(おねえちゃん・・・やっぱ機嫌悪そう・・・。)」

いつもと違ってやけに静かなのがかえって怖い。

「(こんな時はそっとそっとしといたほうがいいんだけど・・・。)」

「あ・・・冷えると思ったら・・・雪だ。」

帰り道の風が、雪の匂いを含んでいたから、そのうち降るだろうとは思っていた。

「降ってるの?」
「今降りだしたトコ。」
「寒いから開けないでよね。あんた、雪が降ったら犬っころみたいにはしゃぎまわるんだから。」
「まだ積もってないよ。」

アイは窓の外を見ようともしない。
雪が降り出したらわくわくして、早く雪の中を駆け回りたいというケイの気持ちは、アイには分からない。

翌朝になれば雪が積もるだろう。
アイもその頃にはベッドに入っている。
早朝起き出して、外に出てみよう、とケイは自分の部屋に戻った。


「・・・ケイに当たるなんて・・・あたし、サイテーだな・・・。」

そんなことくらい分かっている。

「でも・・・雪なんか・・・キライ・・・。」

身も心も凍えてしまう。
頭が妙に冴えて身体の芯から冷えていくようだと思った。



「わー。積もってる。」

明け方、ベッドから這い出て外を見ると、銀世界だった。

「まだ雪ダルマは作れないかな。」

やっぱり一晩では、足が埋まるほど、というわけにはいかないようだ。

「メドウ・グレンとは違うな・・・。」

雪が降ると思い出すのは、おばあちゃんと過ごした幼い日のことばかり。
この街の雪の色と、メドウ・グレンの雪の色とではまるで違う。
それでもケイは、雪が降るとわくわくするし、同時に物悲しくもなるのだった。

「ばぁちゃん・・・。」

もっともっと降り積もって、この眠らない街を埋め尽くしてしまえばいいのに。


明け方だというのに、車の音が止みもせず、ビルの明かりは煌々と街を照らしていた。




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あれ?なんでこんな切ない話に?
はっちゃけるのは次回から。

月曜日, 8月 25, 2014

プロローグ Side_K②

見知らぬ男に声をかけられ、訳の分からないことを言われたケイが、『今日は厄日だ』と思いつつ家に帰ると、テーブルの上に黒焦げの物体があった。

「おねえちゃん・・・。」
「な・・・なにかな?」
「これは・・・なに?」
「わ・・・ワッフル?」

「キッチンに立たないでって言わなかったっけ?」
「・・・食べるものがなかったから・・・。」
「せめてサラダくらいにしといてくんないかな。」

部屋中が焦げ臭いと思ったら、アイが黒焦げの料理を作っていた。
アイは、料理センスが皆無である。
ついでに、片付けもヘタである。
なので、無闇にキッチンには立たないでくれ、とケイは以前から言っていたのだ。

「だってサラダだけじゃ・・・結婚したらカレに手料理食べさせてあげたいし・・・。」
「そのカレとやらはいつ会わせてくれんの?」
「だって、まだプロポーズしてくんないんだもん。」

アイがピアノの音に文句を言ったり、時に酔っ払って帰ってきて暴れたり、はたまた、こんな風に突然料理を作り出したりするのは、すべて恋人がなかなかプロポーズしてくれない腹いせだった。

「プロポーズしてくんなくったって、会わせてくれてもいいじゃん。」
「ヤダ。家族になるのとならないのとじゃ大違いなんだから。」
「そのうちしてくれるよ。タイミング、見計らってんじゃない?」

「タイミングって・・・もう5年もつきあってんのに・・・。」
「男の人だって、決心つけるのに勇気いるんじゃないの?一生のことなんだし。」
「だって、あたし、もうアラサーよ。アラサー。」

「じゃ、おねえちゃんからプロポーズしちゃえばいいじゃん。」
「・・・ケイ、それ食べるの・・・?」
「食べるに決まってんじゃん。もったいない。」

「それ・・・さっきハエがたかってたよ・・・。」
「ハエがたかるってことは食べられるってことじゃん。」

ケイは、自分自身は料理がうまいが、食べられるならなんでも食べる。
けれど、出来れば食べたくはない。
そのためにも、アイの恋人がさっさとプロポーズしてくれて、アイを落ち着かせてくれればいいのに、と事あるごとに思っているのだ。


「あのね、それでケイったらね。」
「・・・あーお腹空いた。オニオンリングください。」

「ん?なにか言ったかな?アイちゃん。」
「なんでもないよっ。」

「そう?・・・あー。もう少し塩味が欲しいな。」

これがアイの恋人のディーン。
軍人である。

夜が遅い仕事のアイと、朝が早い仕事のディーンは、なかなか時間が合わないのだったが、ほんの少しの合間を割いては、デートを重ねていた。
そうやって重ねて重ねて5年。

お互い、結婚するのに早い、ということはない。

なのにディーンがまったく結婚の話を持ち出さないので、アイは焦れている。

「ね、ディーン。」
「ん?アイちゃんも食べたい?」
「あたしは食べてきたから。そうじゃなくって・・・。」

ケイの言うとおり、こっちからプロポーズしてしまおうか、とも思った。
けれど、もしディーンにその気がなかったら・・・。
なにか結婚の支障になるものでもあるのだろうか、とあれこれ勘繰ってしまう。


「アイちゃん。」
「な・・・なぁに?」

ケイに言われた一言のせいで、プロポーズしようかそれはアリなのかやっぱり待とうかどうしようかと、ぐるぐる考えていた。
考えている時にふいに話しかけられたので、アイはちょっと挙動不審になっていた。

「あのね。」
「う・・・うん。」

ディーンがいつになく真剣な顔をしている。
これは・・・と胸が高鳴ったが・・・

「トイレ行ってくる。漏れそう。」
「・・・やっぱり・・・。」

いつもこうだ。
いつもこうやってはぐらかされる。
ディーンは、アイが挙動不審だろうがなんだろうがお構いなしに、常にマイペースなのだ。

「なんなの・・・あの男・・・。」

アイにはディーンの真意が読めない。
でもこの人しかいない、と決めている。

「くっそ・・・飲んでやる・・・。」

これも毎度のこと。
いったいいつになったら決めてくれるのか・・・。
やはりこちらからもっと、ガンガンアピールするべきなのかもしれない。


「おねえちゃん、デート?」
「今日こそ決めてやるんだから。」

「よしっ!」

数日後、またしても気合を入れて、アイが出掛けて行った。
しかし、ケイには嫌な予感しかしない。

「あたしも出かけよっと。今日はちょっと遠出するか。」

アイが家にいなくとも、ピアノを弾き始めたら、ケイは時間が経つのを忘れてしまう。
アイがイラついて帰ってくれば、また怒られる。
それに、この前公園で弾いてみたら、存外気持ちが良かったので、少し遠くの場所に行って弾いてみようと思ったのだ。

「二区画くらい行けばいいかな?」

地下鉄に乗って、港の側まできてみると、広い公園があった。

「なんかキレイな公園!」

「ここなら大丈夫かも♪」

あたりに人影はない。
ここなら思う存分ピアノが弾ける。


しかし・・・

「やー。雨だ・・・。」

ケイが弾き始めて程なくして、雨粒が落ちてきた。

「キーボードがダメになっちゃ・・・う。」
「やぁ、ケイちゃん。」
「げ。」

キーボードを片付けていると、またしてもこの男が現れた。
もしかすると、ケイが気付かなかっただけで、ずっと見られていたのかもしれない。

「ジェイさん。なんでここにいるの?」
「偶然通りかかったんだ。」
「ストーカー?」
「偶然だって言ってんじゃん。」

「それはそうと、やっぱキミ、うまいなぁ。誰かに聞かせたいとか思わない?」
「思わない。」

「なんで?」
「ヘタだもん。」
「ヘタじゃないって。」

「一回、俺とセッションしてみない?」
「ヤダ。人と合わせたことなんかないよ。」

「雨でびしょびしょだから、もう帰る。」
「ちょっと待った。雨宿りしていかね?」
「ヤダ。」

なぜこの男は、こうも自分に執着するのだろう。
ケイには分からない。
だが、次の一言に目を見張った

「じゃー・・・グランドピアノ、弾きたくない?」
「グランドピアノ・・・?」
「そ。雨宿りに付き合ってくれたら、グランドピアノ弾かせたげる。」

「ホントに?」
「ホント。ホント。行く?」
「ピアノ弾くだけだよ。」
「OK。」

ケイはグランドピアノを弾いたことがない。
機会があれば弾きたい、どんな音が出るのだろう、と以前から憧れていたのだ。
ケイは、ジェイに連れられ、一軒のバーにやってきた。


「ここにピアノ、あるの?」
「あるある。」
「飲んでないで早く弾かせてよ。」
「まぁ待て。一杯くらい・・・。」

「じゃ帰る。」
「分かったって・・・。そこの向こう側。」

「こっち?」
「俺も行くから待てって。」

「わ!」

「ピアノ!」

「俺とセッションしよう。」
「だから人と合わせたことなんかないって。」
「俺が合わせる。なんでもいいから軽めの曲、弾いてみな。」

「じゃあ・・・。」

ケイが鍵盤に指を落とすと、ジェイがそれに合わせてギターをかき鳴らした。
グランドピアノの、重厚でいてけれども澄んだ音色と、アコースティックギターの弾けるような軽妙な音が重なり合い、空間を支配していく。

ケイは胸が高鳴った。

こんな感覚は初めてだった。




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長くなりそうなので続く。
ちなみに、ディーンさんのモデルは、もちろん某調査兵団の団長さんです。