それからアーネストは、クリスの様子を見に、家を訪ねた。
「なんてとこに住んでるんだ・・・。」
そこは家、と呼ぶにはあまりにも粗末な饐えた異臭のするゴミ溜めのような場所だった。
「アーネスト・・・何しに来たんだ。」
「お前の様子を見に来たに決まっているだろう!ちゃんと食事はしているのか?」
「ふ・・・しているさ。・・・まともな食事じゃないがね。」
「ちょうど今、作ったところなんだ。君もどうだい?食べていかないか?」
「ああ・・・いや・・・。」
アーネストは、この家全体に漂う異臭に辟易していた。
そんな中で、食事など出来ようはずがない。
おまけに、その食事というのも、まるで残飯のような匂いがした。
「・・・クリス・・・。この子は・・・。子供・・・産まれたのか。」
「ああ。僕たちの娘だよ。ジュディというんだ。」
「こんなところに・・・。ベビーベッドはないのか?」
「そんなもの・・・買う金はないよ。」
「可哀想に・・・。」
その時、奥からシンディーが眠そうな目をこすって出てきた。
もう日も高いというのに、こんな時間まで寝ていたらしい。
「お前・・・この子の母親だろう!ちゃんと面倒見ているのか!?」
「なっ・・・なによ!あんた!あたいは明け方まで働いて疲れてんだ。クリスのヤツ・・・花嫁として迎えるなんてうまいこと言って、結局勘当されて・・・こんなはずじゃなかったのに!」
「こんな子供が出来たおかげで、半年以上稼げなかったし、クリスは金稼ぐことなんか出来やしないし・・・。とんだ貧乏クジ引いちまったよ!」
「な・・・なんて女だ・・・。」
「あたいは稼ぎに行くんだから!そこ、どいとくれ!」
思った通りの・・・いや、それ以上のこれ以上ないくらい最悪な顛末だった。
「おい・・・クリス・・・。あんなこと言わせて・・・いいのか?」
「本当のことなんだから仕方ないよ。僕にはお金を稼ぐ才覚なんてないんだ。シンディーの稼ぎに・・・頼り切っているんだ・・・。」
「家に・・・援助を申し入れろよ!」
「そんなこと出来ない。僕は・・・家を出されたんだ。父さんが許すはずがない・・・。」
「彫刻は?作っていないのか?」
「道具を買うお金がないんだよ。このイーゼルだって・・・やっと買ったんだ。」
「クリス。とにかく僕がおじさんに話して、少しでも援助してもらうようにするから・・・。」
「アーネスト。余計なことをしないでくれ。これ以上・・・みじめな思いをさせないでくれ・・・。」
「クリス・・・大バカやろう!お前が・・・一言おじさんに詫びを入れて家に戻りさえすれば・・・。」
アーネストはクリストファーを哀れんだ。
しかし、その哀れみがクリスを傷つけるということを、アーネストは知っていた。
クリスは間違いなく後悔している。
けれども、すべて自分がまいた種だということもわかっている。
「僕は・・・どうしたらいい。あいつに何がしてやれるんだ!」
アーネストがクリスのために出来ること・・・それは、チャールズを説き伏せ、クリスを家に戻してやることだ。
しかし・・・。
「アーネスト。お前はそう言うが、クリスがそれを望んだのか?」
「・・・いえ。けど、クリスだってきっと、戻りたいと思っているはずです。子供だって・・・。」
「ならばなぜ、直接私に言いに来ない?あれは自分で望んでこの家を出たのだ。それに、戻ったとしても・・・キャロルの気持ちはどうなる?あいつはキャロルを傷つけ、クララの命を縮めたんだ。そんなヤツに、情けをかける必要は・・・ない!」
「おじさん・・・。」
チャールズとクリスは、お互いに意地を張り合い、歩み寄ろうとはしなかった。
「旦那・・・アーネストのヤツ、出すぎたまねをして、申し訳ありません・・・。」
「いや・・・いいんだ。ユージン。アーネストの気持ちは分かっている。私たちを和解させようと必死なんだ。」
「しかしな・・・私はクリスを許すわけにはいかんのだよ。あいつは・・・皆の気持ちを踏みにじり、出て行った!許せば・・・クララにもキャロルにも申し訳が立たんのだ!」
「だ・・・旦那・・・。」
本当は・・・チャールズも、アーネストの言う通り、クリスを許したかった。
だが、それをしてしまえば、つらい思いをした皆が報われない。
たとえクリスの目が覚めて、シンディーとの関係を絶ったとしても、一度裏切られた思いは消えはしない・・・
そう考えると、簡単にクリスを許すなどということは出来なかった。
「ああ・・・アーネスト。」
「父さん・・・。」
「クリス様は・・・辛い思いをしていなさるのだろう?」
「ええ・・・。とても幸せそうには見えなかった・・・。だから僕は・・・。」
「そうだろう。クリス様があの家を離れて、幸せになどなれるはずがない。」
「とても生活にも困っていて・・・あの女は、まだ身を売って稼いでいるらしいんだ。」
「ふむ・・・。嫌な噂があるからな。」
「え・・・?」
「なんでもあの女・・・私とそう変わらない年寄りと懇ろになって、家に入ろうと企んでいるらしい。」
「え?だって・・・クリスは・・・?」
「それだよ。」
シンディーは赤ん坊を産んだ後も宿屋で客を取り、最近、この街にやってきた、父親ほども年の離れた金持ちの男と親密になっていた。
その男は妻を亡くし、子供もおらず、関係を持ったシンディーを愛人として家に迎え入れようとしている・・・そんな噂だった。
「ところでアーネスト。ちょっといいか?」
「なんだい?そもそも、なんでこんなとこに呼んだんだい?」
「うむ・・・実はな、盗難があってだな・・・。」
「そういえば・・・誰もいないな。」
そこは保安官事務所だった。
この街では、荒くれ者が暴れる、などということはほとんどなかったため、普段は事務所に保安官が詰めているのだったが、それでも山賊の類いが街に入ってくることもあり、その時ばかりはみんな出払ってしまう。
「一体、何が盗まれたっていうんだい?」
「なんでも・・・銃が一丁なくなっているらしいんだ。」
「銃?」
「こんなところに無造作に置いているほうが悪いんだが・・・。」
「ライフル・・・か。」
「なくなったのは・・・いつだ?」
「三日ほど前らしいんだがな。今のところなんの事件もないが・・・。」
「山に入って獣でも撃つために持ち出したんじゃないか?」
「だといいが・・・。お前も町の様子に目を光らせておいてくれないか?」
『この街で事件?・・・冗談じゃない。』
犯人は誰なのか、なにか事件を起こそうとしているのか。
アーネストは犯人探しに協力することを保安官事務所に申し入れたが・・・
嫌な予感を拭い去ることが出来なかった。
ちょっと間があいてしまいました。
このところ、一話作るのに、えらい時間がかかってしまって・・・(前も書いたか。)
あと少しで、この昔話は終わります。
おおよそ皆様の予想通り・・・だと思います(^-^;)
こんばんわ♪
返信削除シンディー!なんと言う女だ!
もしやクリスは田吾作状態なんじゃ…?
なぁ~んてね(笑)
でもシンディーが愛人になるんだったら、
子供を連れて行くとは思えないんですよね。
もし連れてったとしても子供の人生は分かり過ぎる程分かります。
こんな女のために家を出たクリスが憐れです。
けれどこの時代の女性は食べてくためにお金を求めて
身を売るのは仕方がない時代だったのも確かですよね。
そしてもしクリスがあのまま家にいても、
どこか満たされない思いが残って
結局はどうにかなってたかも知れないですよね。
一歩大人になるためにはシンディーとの事も無駄ではなかったかもしれません。
…って…もうクリスが捨てられてると勝手に思ってしまってるし(笑)
早くお父さんと仲直りして家に戻るのが一番いいと思うんですが、お父さんの気持ちも分かるし…。
人生ってうまくいかないですね…。辛いです(T_T)
それもそうですけど銃が盗まれたのが心配です。
アーネストが巻き込まれなければいいが…。
なんか嫌な予感がします。
続きを楽しみにしていますね♪
まこさん、こんにちは!
返信削除まこ・・・まことんさんですよね?
誰かと思っちゃった(^-^;)
(違ってたらごめんなさい・・・)
シンディーはみどりよりひどい女ですよー!
自分の利益しか考えてないです。
身体をエサに、男をたぶらかして、いい生活がしたいっていうそんな性格。
まじめに働こうなんていう気はさらさらないです。
そんなシンディーに引っかかってしまったのは、クリスが未熟だからなんですけどね。
確かに魅力的なんだけど、それだけ。
子供だって、はずみで出来たわけではなく、ただ、クリスに責任を取らせるためだったんですが・・・
クリスと1年ほどどん底生活をして、シンディーはそろそろキレかかってます。
チャールズは、本当は心根の優しい男なんですけど、クリスに裏切られたことが辛くて辛くてしょうがなくって、それが彼を頑固にさせてます。
たった一人の息子なんだから、許してあげればいいのに・・・と思いますが、人生ってホントに難しい(笑)
でも、リアルにこんな親子っていますよね・・・。
ずーっと音信不通で、分かり合えないっていう。
昔話もそろそろ終わりです。
実はこの後、別の昔話があるんですけど、それは手短に終わらせて、現在に戻らなければ・・・。