「あ。ヒョウが降ってきた。わりと暖かいのになぁ。」
メドウ・グレンの街にやってきたケイは上機嫌だった。
「あのマーケットはいい感じだったなぁ。・・・お金さえあれば。」
あれこれといろいろな新しい建物が建っている。
けれど、十数年ぶりなのだ。変わっていないほうがおかしいだろう。
「明日はもっと街の中心地まで行ってみようかな?」
この街に来てから、ケイは少しずつ外出して、いろいろな場所を見て回っていた。
とはいえ、まだ川向こうまでは足を伸ばしていない。
しばらくの間は、街中を見て回ること時間を費やそうと思っていた。
「うひゃあ!降ってきた降ってきた!」
「ただいまー。」
誰が答えてくれるわけでもないが、この家に帰ってくると、そう言わずにはいられない。
家の中は、家具も取り替えられているし、内装も随分と変えてあって、子供の頃住んでいた家とは様子が違っていた。
それでも、なんだか懐かしい匂いがする。
「んもぉー・・・電話うるさいー。」
「もしもーし?あ。おねえちゃんかぁー。なぁに?」
「うん。ちゃんと食べてるって。お姉ちゃんと違って、適当な食材があればなんか適当に作れるもん。」
「仕事?ここに着いてからまだそんなに経ってないよぉ。そのうち、そのうち。」
「ホームレス生活なんかしないって!ちゃんと家があるんだもん。」
アイは、一人で旅立たせたケイを心配して電話をかけてくる。
姉として、ケイがきちんと生活しているかどうか気になるのだ。
「だーいじょうぶ!ちゃんと一人で生活出来るから!もう切るよー。」
けれどもケイは、アイのそんな心配をよそに、初めての一人暮らしを満喫していた。
「ご飯だって作れるし~♪野菜が新鮮で美味しそう!」
「よっと。」
「ありゃ。作りすぎちゃったかな?」
「冷蔵庫に入れとけばいっか。・・・ん。おいし♪」
外から帰ってきて食べるものを作り、食事を終えて、テレビでも見て時間を少々過ごし、
「ピアノ、ピアノ。」
ピアノを弾くのだが、
「ふふ~ん♪」
あろうことかケイは、納屋に自分の居場所を作っていた。
昔、秘密基地と称しておもちゃを並べて一人過ごしていた場所である。
家の内装はほとんど変わってしまったが、唯一この場所だけは、昔と同じ、建替えられもせず、ほとんど手を入れられていない状態で残されていたのだ。
そして、アイにはそのうち仕事を探す、などとうまいこと言ってごまかしてはいるが、ケイは働きに出る気はさらさらなかった。
「まずは、家庭菜園だよね。」
「それからー・・・。」
「なんか釣れるかな?」
「ここには魚、いないかなぁ。」
「あっ!」
「金魚かぁー・・・。金魚じゃ食べられないなぁ。 釣り場はどっか探さなきゃなぁ。」
そして・・・
「えへへ。」
「かーわいい♪」
「お前達も早く大きくなって、たくさん卵を産んでね。」
こんな生活をするのが夢だったのだ。
ケイ一人、糊口を凌ぐには、これで十分だろう。
「今日はちょっと遠出してみようかな。」
よく晴れたある日、ケイは川向こうまで足を伸ばしてみようか、と自転車で出かけた。
「あっ。アライグマ~。」
「そうだ。学校、行ってみようかな。どんな感じかな?」
昔、自分が通っていた学校は取り壊され、新しく建て直した、という話は聞いていた。
どんな風に変わったのか、見物に行ってみよう、と思い立ったのだ。
「うぉっ!なんか都会になってる!」
家から学校までは、かなりの距離がある。
子供の頃、ケイは毎日スクールバスで通っていたが、家を出て川を渡り、ぽつぽつと建っている家やお店、広大な空き地など、街を眺めては楽しんでいたのだ。
「この坂を登れば・・・。」
街の中を抜け、小高い丘の上に建つ学校目指して、ケイは懸命にペダルを踏んだ。
「・・・え?これが学校?」
ようやくたどり着いた場所に建っている建物を目にして、ケイは驚いた。
「ブリッジ・ポートにも、こんなのなかったよ・・・。」
ガラス張りのいかにもモダンな建物で、一見学校とは到底思えない。
「昔はちっちゃい学校だったんだけどなぁ・・・。」
これでは母校だ、などと感傷に浸る隙もない。
本当は、中まで入って見学してみようと思っていたのだが、キラキラと光を受けて輝く学校を前にして、すっかり臆してしまった。
「すっかり都会になっちゃったな。・・・こんなお店もなかったし。」
学校の周囲には、いくつか店が立ち並んでいる。
以前は何もなかった場所なのに、人口が増えて、需要が出来たということか。
「なんの店だろう。本屋さん?」
その中の一つの店に立ち寄って中に入ってみると、本棚にいろいろな本が並んでいた。
「いらっしゃーい。」
「こんにちは。ここ、本屋さんなの?」
「本は全部古本だよ。」
「置いてるのは本だけじゃないよ。奥には服とか、いろいろあるから見てってよ!」
「へぇー。」
「どれどれ。」
扉一枚隔てた奥には、服や小物、アクセサリー類もあるし、装飾品なども並んでいる。
「わぁ。ほんと、いろんなもんがあるー。」
「服も欲しいけど、お金ないしなぁ・・・。」
あれこれと見て回ったが、壁に飾られているものを見て、ケイは足を止めた。
「・・・え?なにこれ?光ってるから・・・ライト・・・?」
「か・・・可愛い・・・欲しい・・・。」
ネコの形をした壁用ライトだ。
こういうのがあれば部屋が明るくなるし、可愛くて見て楽しむことも出来る。
眺めているうちに、欲しくて堪らなくなってきた。
「ねぇ、お兄さん。あっちの部屋にあるネコのライトなんだけど。売り物なの?」
「ああ。あれね。なかなか面白いでしょ?」
店員に聞いてみると、あれも売り物だということだ。
「いくらぐらいするのかなぁ。」
「一つ$40。三つで$100でいいよ。」
「$100かぁ・・・。」
「あれっ?買わないの?掘り出し物だよ?」
「$100・・・そうかぁ・・・そのくらいはするよね・・・。」
今のケイに出せる金額ではなかった。
自給自足生活はいいけれど、欲しいモノが出来た時に、手元に現金がない。
以前貯めていたへそくりなど、引越し代で吹っ飛んでしまっていた。
「でも・・・欲しいなぁ・・・。どうしかしてお金、作らなきゃ・・・。」
それだけではない。
「あっ!」
「・・・テレビ、壊れた・・・。」
「トイレも壊れた・・・。」
「食洗機まで・・・。」
テレビ、トイレ、お風呂、シャワー、食洗器・・・とあらゆるものが壊れていく。
おまけに・・・
「なにこれ?」
「水道代、電気代、新聞代ー?」
郵便受けから郵便物が溢れていたので覗いてみると、請求書のヤマだった。
生活をしていれば、光熱費がかかるのだ、ということを、ケイはすっかり忘れていた。
今まではアイの口座から直接引き落とされていたものだから、尚更である。
「どうやって払おう・・・。」
一人暮らしを満喫しよう、と意気込んでメドウ・グレンにやってきたケイだったが、いきなりとてつもなく高い壁にぶち当たった気分だった。
夢の自給自足生活は甘くない、と思い知らされたのだ。
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本編です。
ケイちゃん一人暮らしは動かすのが楽ですw
こんにちは、yuzuさん ようやく本編突入ですね 久しぶりのケイちゃんに癒されています あーる君との再会が楽しみです ちなみに、登場人物の名前がKとかIとか、RとかCってアルファベットなのには何か意味があるのでしょうか? 追記:旧ブログ「おまえは誰かの太陽でいられるか?」は閉鎖しました お手すきの折にリンク解除をお願いします
返信削除片岡さん、こんばんは!やっと本編までたどり着きました。たどり着かなかったらどうしよう・・・と思ったりしてましたが、ケイちゃん見てると楽しいです。
返信削除アルファベットは別に意味はないのです。名前考えるのがめんどくさくて・・・アルファベットにしたら楽かな?と思ったんですけど、既に手詰まりです^^;
ところで、リンク、失礼いたしました!新ブログに貼り変えます!!すみませんでした。。
yuzuさん、お久しぶりです いつもぎんちゃんは見ていますよ♪
返信削除突然ですが新ブログを始めました → http://sonzai2016.blogspot.jp/
よって、元のブログは更新停止となります
取り急ぎご連絡まで
片岡さん、いつもありがとうございます。
削除新ブログの件、了解いたしました。
ぎんちゃんだけは頑張ってます。