「怜、知っているか?」
「なんでしょう?」
「南極と北極は、どちらが寒いか分かるか?」
「南極です。南極は大陸がありますし、標高が高いですから。」
「ほう。よく知っているな。」
「当然です。」
「じゃ、これはどうだ?」
怜と四郎がトリビア勝負をしているところへ、アールが帰ってきた。
「ただいまー・・・。あー腹減った。」
「おや、アールくん、おかえりなさい。デートじゃなかったんですか?」
「うん。」
「なにも食べてこなかったんですか?」
「ボーリングしててさぁ・・・。」
「気付いたらこんな時間になっちゃって・・・。しぃちゃん、送ってきたんだよ。」
あれから、しぃに教えながら何ゲームかやって、気付いたらしぃの門限の時間が迫っていた。
「あー・・・やっぱ寮のメシはうまいなぁ。」
「俺が作った残り物だぞ。それ。」
「だからだよ。」
「アールくん、上着くらい脱いだらどうです?」
「だって腹減ってんだもん。」
「あ。そうだ。怜ちゃん、話が・・・。」
「ボクは読みかけの本でも読むことにします。談話室に行ってますよ。」
しぃがダメなら、赴任先に、怜か四郎と一緒に行ってもらおう・・・とは虫のいい話だが、どうにも一人では不安である。
「あのさー・・・二人とも。」
「んー?」
「なんだ?」
「あのさー・・・話しあるんだけど。」
「そうですか。」
「そうか。」
しぃには、既に就職は決まった、と言ったアールだったが、この二人には、正直に言ったほうがいい。
「怜ちゃんは休暇、実家に帰るんだったよね?」
「はい。」
「四郎は・・・。」
「俺も帰るぞ。院試に受かったことを親に報告せねばならん。ついでに家業など継がんと親を説得してくる。」
「えー。大変だねぇ。・・・じゃ、時間はないかな?」
「なんの時間だ?親を説き伏せるのに何日かかると思うんだ。」
「そうだよねぇ・・・。」
「何を企んでいる?」
「いやいや~・・・俺と旅行しないかな~とか思ってさー。」
「なんで貴様と旅行に行かねばならんのだ。」
「きっと楽しいよぉ~。実家に帰る前にちょこっと。」
「男同士で旅行なぞ、誰がするか。なんだか分からんが、怜に行ってもらえ。」
「ボクもイヤです。」
「そう言わずに頼むよー。俺の・・・。」
「・・・さて。」
「俺は寝る。アールの戯言になど付き合ってはおれん。」
「ボクもそろそろ・・・。」
「二人ともー・・・。」
「寝るとします。」
「怜ちゃーん。話し聞いてよー。」
「眠たいので明日聞きます。」
二人ともなんて友達甲斐がないんだ・・・と、アールは自分の身勝手さを棚に上げて思ってみたが、なんだか情けなくなってきた。
「・・・そりゃぁーさ・・・自分のことなんだから俺がしっかりしなきゃなんだけど・・・。」
けれど、どうしても不安なのだ。
「本当なら、しぃちゃんと一緒に行って、本採用・・・内定でも出たらその場でプロポーズして、二人で将来住む家を探しに行ったりして・・・。」
「・・・いかん、いかん。妄想しすぎだ・・・。」
不安だ、というのもあるが、一人で見知らぬ土地に行くのが、どうにも寂しい。
「四郎はちょっとムリかな。やっぱ明日、怜ちゃんを口説き落とそうかな。」
事情を話して頼み込めば、怜なら断らないだろう。
「そんで、その後、一緒に実家に帰ればいいし。・・・ね。怜ちゃん。」
怜に同行してもらって、就職を決めて、それなら大手を振って実家に帰れる。
「ホテル代くらいは俺が持つか・・・。惜しいけど・・・でも・・・。」
しぃと一緒に行くのなら、費用はすべて自分持ちだ、と考えれば、怜の宿泊代くらいなら安く上がる。
そう思い直すことにした。
「怜ちゃーん。」
「なんですか?」
「昨日の話の続きなんだけど・・・。」
翌朝、起きるなりすぐに、アールは怜をつかまえて、口説き落とそうとしていた。
「なんなんですか。朝っぱらから。朝食が先です。」
「そう言わずに聞いてよー。」
「あのさ。教授の紹介で、就職の口利いてもらったんだけど・・・。」
「ほぉ。それはよかったじゃないですか。本採用ですか?」
「いや~・・・一度、赴任先に行かなきゃいけないんだよね。」
「うん。行けばいいじゃないですか。」
「怜ちゃん、一緒に行ってくれないかなぁ。」
「なんでボクが?明日には実家に帰るんです!こんな寒いところからは一刻も早く立ち去りたいんです!」
「そう言わずにさ。頼むよー。」
「そんなの、一人で行ってください!それに、しぃさんはどうしたんですか?」
「しぃちゃん、家族旅行なんだよ。俺とどっか行こうなんて言えなかったし。」
「怜ちゃんしか頼れないんだよ。」
「一人で行ってください。」
「そこをなんとかさー・・・。」
「イヤですってば。」
怜は嫌がっているが、こうなったらなんとしてでも一緒に行ってもらわなければ、とアールは意地になっていた。
「あー。やっと終わりました。」
今年最後の講義が終わり、学生たちは帰省の準備に取り掛かったり、今年最後のパーティーの準備をしたり、となんだかそわそわしている。
講義の間中もずっと、アールは怜からなんとかOKを貰おうと、話しかけていた。
「さーて。帰りますか。」
「怜ちゃんてば待ってって。」
「ね!お願いっ!俺と一緒に行ってよー。」
「イヤですよ。」
「もちろん宿泊代も出すし!きれいなホテルがあるらしいんだよ。」
「どんなところなんですか?」
「それが分かんないから一緒に行って欲しいんだって。」
「・・・。」
「楽しいとこかもしれないよ?こんなに雪も降ってないかも?」
「・・・信用できないんですが・・・。」
「1日だけだよ。そんでさ、一緒に実家帰ろうよ。」
「帰ることにしたんですか?」
「就職、決まったも同然だったら、帰ってもいいんだし。」
「ね?」
「・・・まったく・・・。」
「仕方ありませんね。1日だけですよ?」
「もちろん!ちょっと挨拶して終わりだから!」
「いいでしょう。その後は実家に一緒に帰りましょう。」
「やった!やっぱ怜ちゃんならOKしてくれると思った!」
「寒くなければどこでもいいです。」
怜には適当なことを言ったが、アールもどんなところなのかまったく分からなかった。
過疎化が進んでいる、と聞いたので、結構な田舎町かもしれない。
けれど、怜が一緒に行ってくれるなら、どんなところでも構わなかった。
「あれ?意外と都会っぽくない?」
「そうですね・・・。」
「もっと田園風景が広がってるのかと思ったよ。」
怜と一緒に訪れた街は、予想に反して、かなり発展している様子だった。
古い建物と、真新しい建物が混在し、不思議な調和をかもし出している。
「なんだかいい街じゃん。」
「そうですね・・・。」
「怜ちゃん、元気ないね?どーした?」
「ふぅーん。ここがホテルかぁ。なんだかいい感じだなぁ。」
「アールくん・・・。」
「ん?なに?」
「寒いです。」
「確かに・・・。思った以上に寒いな・・・。」
「騙されました。大学より寒いです。」
「早く中に入りましょう。凍えてしまいます。」
「雪、深いなぁ。」
今はちらちらと雪が舞っている程度だが、この積もりようから推し量るに、かなり降り続いているのだろう。
「ほっ・・・中はあったかいですね。」
「先にチェックインしてくるか。」
「お願いします。」
このホテルは、まだ建ってから間もないようで、きれいだった。
それに、客の入りもよさそうだ。
「いらっしゃいませ。」
「予約してた一ノ瀬ですけど。」
「一ノ瀬様、2名様ですね。」
「はい。この辺りって観光するところとかありますか?」
「いろいろとございますよ。」
「新しく出来た学校など、一見の価値ありです。」
「学校が・・・ですか?」
「はい。それは素晴らしい建物ですよ。」
「俺、そこに用があるんですよ!」
「そうでしたか!来年の秋に開校するんですが、ほぼ完成してますので、中もご覧いただけますよ。」
「そっかー。早速行ってみようかな。」
「車ですぐですよ。」
「ふぅん。そんなにいい学校なんだな。」
フロントでそう聞いたアールは、気を良くしていた。
新しい学校で、若くてイケメン(?)の教師になった自分が、女生徒達にちやほやされる妄想が膨らんだ。
「先生ー恋人いるんですかぁ~?・・・なんちゃってな。」
「何を言ってるんです。アールくん。」
「いや・・・ちょっと妄想を・・・。」
「あ~・・・お茶がおいしいです。暖まります。」
「俺も飲もうっと。」
「部屋は取れました?」
「予約してたんだから大丈夫さ。」
「まぁ、そうですね。」
「お茶飲んだら、早速学校に行ってみようと思うんだけど。」
「うん。早く用事を済ませて、明日には発ちましょう。」
「じゃ、一緒に行こうか。」
「・・・アールくん、何言ってるんですか。一人で行ってください。」
「えー?怜ちゃん、ついてきてよー。」
「・・・アールくん・・・見てください。外を。」
「おっ。結婚式場もあるのかー。こういうとこで結婚するのって、いいなぁ。」
「そうじゃありません!こんな雪の中、外に出るのはまっぴらです!ボクは部屋でのんびり暖まってます!」
「すぐ近くだってよ?」
「建物も一見の価値ありだって!一人で部屋に残るんじゃ、寂しいだろ?」
一人で不安なのは、間違いなくアールのほうだった。
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大学からやっと抜け出せました。
自分好みに街を作るのって、相変わらず大変だー。
ワールドを作ってらっしゃる方はスゴイです。
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