空が灰色の雲に覆われた冬の始まりのある日のこと。
「今朝はパンケーキでも焼こうかねぇ。」
ここはメドウ・グレンという町。
「よっと。」
その町のはずれの一軒家。
「おや?初雪だ。」
雪が降り始めると深く深く積もって、町全体が真っ白い羽毛に覆われるように見える。
そして町全体が冬眠するかのように、静まり返る。
「ばぁちゃん、おはよー。」
「おやケイちゃん。もう起きたのかい?」
「うん。」
「朝ごはんは?」
「あとで食べる。」
「冷えると思ったら、初雪だよ。」
「雪が降る音で目が覚めた。」
「すごい聴覚だねぇ。」
「そうでもないよ。」
「どんな音?」
「すん、すん、ふもふも、すー、って感じかなぁ。」
「面白いこと言うね。」
「雪じゃ遠出はできないなー。」
「どっか行く予定だったの?」
「石、拾いに行きたかったんだー。」
雪が降る前に行っておけばよかったかな、とちょっと後悔した。
「うーん。どうしよっかなぁ。」
この子の名前は桐野ケイ。
訳あって2年前から、おばあちゃんと二人・・・とネコ1匹で暮らしている。
ケイが外出をするか悩んでいると、おばあちゃんが後を追ってきた。
「あ、そうだ。ケイちゃん。言うの忘れてたよ。」
「ん?」
「今日、親戚の子がくるんだった。」
「親戚って?」
「なにしに?家族になるの?」
「そうじゃなくってね。冬休みの間だけ預かるんだよ。」
「ふぅーん・・・。ケイ、大丈夫かな。」
「大丈夫って?なにが?」
「うまくやってけるかな。」
「ケイちゃんよりちょっと年上の子らしいけど、
そんな心配しなくっても大丈夫だよ。」
「生活に他人が入り込むのって、接し方が難しいから。」
「難しいこと言うねー。他人じゃないよ。親戚だよ。」
「大丈夫だって。きっと仲良くなれるよ。」
「そうかな?」
「ケイちゃんと仲良く出来ないような子は、ばぁちゃんが叩き出してやるから。」
「(・・・ばぁちゃん・・・過激・・・)」
おばあちゃんはケイのことを溺愛していた。
ケイもまた、おばあちゃんのことが大好きだった。
一緒に暮らし始めたのは2年前からだったが、
それまでもたびたび会っていたし、よく一緒に遊んでいたのだ。
二人のこんな暮らしが、ずっと続くとケイは思っていたのだ。
その日の午後。
「こ・・・ここか・・・。」
「こ・・・こんにちは・・・。」
「いらっしゃい。」
一人の少年が桐野の家を訪ねてきた。
「は・・・初めまして。あの・・・一ノ瀬アールって言います。」
「アールくんね。」
「一人でここまで来たの?」
「いえ。そこまで父に送ってもらって・・・。でも雪が降り始めたから
動けなくなるかもって、引き返しました。」
この少年は、市ノ瀬アール。
変な名前だが、そのうち慣れると思う。
「あの・・・お世話になります。」
「気を遣わなくっていいからね。自分ちだと思って。」
さて。ここから物語が始まります。
~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~ * ~
複雑な話にはしない、といいつつ、過去編から入るとはどういうことだ
・・・という突っ込みはナシで。
物語の途中で過去編をやるより、分かりやすいかと。